[現場から 知事選の焦点](1)基幹産業の再生
浦添市の老人ホームで働いて、今年の春で2年が過ぎた。
「もともと人と接するのが好きだったから、今の仕事もやりがいが持てる」。そう話す男性職員(54)は、2年前まで那覇市内のホテルでフロントスタッフを務めていた。
近年、県内の観光客は右肩上がりで増加。2019年には1千万人を超え、県経済は活気づいた。勤務先のホテルはアジア客に人気で、夏は予約が取れないほど。ある日、客から「外国語がうまい」と褒められた時は誇らしく思った。
そんな華やかな世界は翌20年、新型コロナの世界的なまん延で暗転する。入域観光客数は前年比63・2%(642万7300人)減と、過去最大の落ち幅となった。
ホテルの経営は瞬く間に悪化。契約社員だった男性は上司に「契約更新は厳しい」と宣告された。すでにパートのスタッフはみんないなくなっていて、男性はうなずくしかなかった。
自らを輝かせてくれた観光業界に今も未練はある。だが、感染拡大が繰り返されるたびに打撃を受けるのは不安だ。まだ中学生の子どもを抱え、「介護の業界は需要も安定しているから」と前を向くしかない。
時折、職場近くを知事選候補者の宣伝カーが通り過ぎる。男性は「やはり沖縄は観光立県。観光再生の道筋を示せるリーダーが必要ですよね」とつぶやいた。
■深刻化する人手不足
「人手が足りなくて困っている」。那覇市の別のホテル幹部は打ち明ける。
感染拡大は収まっていないが、行動制限がなくなった今、観光客や県民の利用が徐々に回復している。だが人手不足のため、先日の宴会は急きょ従業員の家族に応援を頼んだほどだ。
このホテルでは利用客が落ち込んだ時、従業員を他の会社に出向させるなど、継続して働けるよう努めてきた。それでも将来への不安を口にし、辞めていく人は少なくなかった。
人手不足は、同様にコロナ禍で打撃を受けた飲食業でも深刻化。那覇市の飲食店店長(43)は「求人広告の反応が全くない」と嘆く。
県がこのほど発表した沖縄観光に関する2021年度の県民意識調査では、観光産業で「働きたい」「やや働きたい」と答えた割合はわずか17・1%だった。
経営悪化の影響もあるが、ホテル幹部は「支持が低い大前提として県民にメリットがない」と指摘する。観光客から徴収した税金を公園や道路に充てるなど、県民も恩恵を実感できる仕組みがあれば人が集まり、育つ好循環を生み出せるのではと考える。
ただ観光関連産業は裾野が広く、意見も多種多様。知事選では「それを取りまとめて有効な施策を実行できるかどうか」にも注目している。
(社会部・島袋晋作)
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知事選投開票日の11日まであと1週間。経済再生やコロナ対策など、県内で焦点となっている現場で話を聞き、問題点を追った。