政府が訪日外国人観光客の受け入れを再開して2カ月が過ぎたが、新型コロナウイルスの流行「第7波」もあり、入国者数は伸びていない。コロナ禍以降、訪日客をガイドする「全国通訳案内士」は、仕事が激減し、廃業や転職に追い込まれる事例が相次いだ。久しぶりに行動制限のない夏を迎えたものの、事実上の開店休業が続く現状に「案内士の仕事を存続できるのか」と不安を募らせる。
全国通訳案内士は国家資格で、報酬を得て外国人の旅行を通訳、案内する。外国語能力や日本の歴史・地理・文化の知識が求められ、仕事内容から「民間の外交官」とも呼ばれる。日本政府観光局によると、2021年4月時点で約2万6千人が登録している。
出入国在留管理庁によると、今年6月10日から7月末に入国した外国人観光客は8千人余り。1日当たりは約160人で、年間約3190万人が訪れた19年と比べるとわずか0・2%にとどまる。
訪日客が多かった中国で海外渡航が厳しく制限されていること、受け入れ再開がツアー客に限定されていることなどが原因とみられる。
◇ ◇
大阪府の通訳案内士の女性(58)はコロナ禍前、1年の半分が関西での依頼で埋まっていたが、ここ2年の仕事はほぼゼロとなった。短期のアルバイトを繰り返しながら生計を立てており「経済的にも精神的にも限界だった」。
兵庫県在住の通訳案内士、松田恵美さん(60)も「仕事のない期間がこんなに長引くとは」と話す。
ハワイに住んでいた20代の頃から「日本の魅力を広めたい」と考えるようになり、50代にして、80代で活躍する案内士がいることを知って一念発起。仕事や家事の合間に勉強を重ねて、16年に合格した。
コロナ禍前は世界各国から依頼があり、日本中に出向いた。数週間同行することもあったが、仕事は途絶えた。
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そもそも通訳案内士は、事前視察のコストやツアー中のリスクに対して収入が低いとされる。加えてコロナ禍後は、収入が大幅に減ったことから、廃業や転職を迫られるケースが続出している。
千人以上が加盟する全日本通訳案内士連盟(東京、JFG)などが実施したアンケートでは、回答した489人の約80%が、21年のガイド収入を「ゼロ」とした。もともと他の仕事と兼務する人が多かったが、JFGは「2、3割が転職した」とみており、他団体とともに国に通訳案内士への支援を訴えている。
松本美江理事長は「ニーズの回復が見通せない。回復する頃には、通訳案内士が不足する恐れがある」と懸念する。
松田さんは「『日本に来て良かった』と喜ばれることがやりがい。早く仕事をしたい」と話している。(末永陽子)
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