ブームの終わりの始まりは顧客満足度の低下から。星野佳路代表は、価格上昇を放置することに警鐘を鳴らした。
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インバウンド需要の急回復で、日本の観光産業は活気を取り戻した。観光庁の調査結果によると、2024年1〜3月の訪日外国人旅行消費額は前年同期比で73.3%増加し、1兆7505億円に上った。
しかし、星野リゾートの星野佳路代表は、その影で進む深刻な経営問題に警鐘を鳴らす。
「問題は、その背景で顧客満足度が下がり始めるという現象が起きていることだ」
星野リゾートが4月17日に開催したプレス発表会で、星野佳路代表はそう語った。
「オーバーツーリズムは(ホテル・旅館の)投資家にとって最高の状態。宿泊料をどんどん上げても需要がついてくるため、一番儲かっている状態になる」(星野氏)
ただ、上昇を放置すると経営に大きな悪影響を及ぼす結果になるという。
「需要が強いからと言って価格を上げすぎると、顧客満足度が落ちていく。コストパフォーマンスに合わないと市場が感じ始めると、その後何年か、場合によっては5年か10年かかるかもしれないが、需要が落ち始めるという問題が必ず起こる」(星野氏)
観光産業ではこれまでにも、スキー場ブーム、北海道のかにブーム、企業の団体目当ての温泉旅館ブームなど、さまざまなブームの盛衰が繰り返されてきた。ブームの終わりの始まりは、顧客満足度の低下がきっかけになるというわけだ。
「収益マネジメント」だけではブランドに傷がつく時代
星野リゾートの経営を始めた1991年以降、「これだけ需要が強いのは実は初めての経験」だと語った星野氏。
顧客満足度と収益の両立を目指してきた同社では、満足度調査を毎日実施しているが、「満足度が下がるポイントはもう現れている」という。
「いままではイールド(収益)マネジメントで、需給関係を合わせるためだけに価格(宿泊料金)をつくっていた。だから、需要が高ければ価格も上げるでOKだった。
しかし、これからは満足度が低下する(直前の)ポイントをMAXにする必要があり、そこにキャップをかけることが非常に重要だ」(星野氏)
星野リゾートでは、すでにその取り組みに着手している。
「需要が非常に強い場所で、価格が無制限に上がっていくことをどこで止めるか。星野リゾートの全地域がそうではないが、顧客満足度調査の結果を見て、満足度が下がるポイントの手前で価格にキャップをかける取り組みを実際に行っている」(星野氏)
これによって、販売チャネルを自社サイトに集約していく効果もあると星野氏は指摘する。
「いままで3つも4つも使っていた販売チャネルを、自社のチャネルに絞っていくことができる。収益的にも短期的にそれほど問題が出るわけでもなく、長期的なサステナビリティは高まると見ている」(星野氏)
目指していたはずの「観光立国」とは逆方向に
インバウンド客が大都市に偏り、地方に広がっていないことが、日本のオーバーツーリズムの問題だと指摘した。
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価格だけでなく、渋滞やゴミの散乱といった問題がオーバーツーリズムの弊害として指摘されることも増えてきた。
これに関しても、星野氏はその背景にある構造的な問題を指摘する。
「実際には日本全体がオーバーツーリズムなのではなく、地域の偏りが激しい(ことが問題)」(星野氏)
訪日外国人宿泊数を都道府県別で見ると、2019年のトップ5(東京都、大阪府、京都府、北海道、沖縄県)だけで全体の約65%を占めていた。トップ10では80%を超え、残りの37県で20%を分け合っている状態だった。
「この格差を是正しながらインバウンドを戻すことが大事だと話していたのに、2023年はトップ5(東京都、大阪府、京都府、北海道、福岡県)で約75%と、実際には悪化している。
2004年の(国の)観光立国推進戦略会議で話し合ったことと逆の方向に行っていることが、私の中では大きな懸念になっている」(星野氏)
問題を打開するカギとして、星野氏は全国各地に37ある国立公園の存在を挙げた。
「世界の観光には文化観光と自然観光という2大コンテンツがある。日本は文化観光は得意だが、自然観光は苦手。苦手な自然観光を強くすることは、イコール、まだまだインバウンドの効果が現れていない地方にコンテンツをつくることだ。そのためには国立公園の強化が非常に大事なポイントになる」