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京都府亀岡市から京都市の嵐山までの渓谷を船で遊覧する「保津川下り」が苦境に陥っている。船が転覆し、船頭2人が死亡した事故から28日で1年。事故後に休業し、安全対策を強化して再開されたが、客足が戻っていない。亀岡市は観光事業の主軸を担ってきた保津川下りの支援を進めており、観光と安全の両立に向けた模索が続けられている。(京都総局 相間美菜子)
3割減
保津川沿いでは間もなく、桜が開花し、観光シーズンが本格化する。着船場がある嵐山は観光客でにぎわうが、保津川下りの見通しは明るくない。船を運航する「保津川遊船企業組合」の豊田
保津川下りは400年以上の歴史があり、乗船場がある亀岡市から16キロにわたる渓谷を約2時間かけて航行する。四季に応じた景観が楽しめるとして、外国人観光客らにも人気で、コロナ禍前の2019年は約24万人が乗船。売り上げは約9億4000万円に上った。
ところが事故の影響は色濃い。昨年の客数は19年の半数以下にとどまる約11万6000人で、売り上げは約5億1000万円。事故が起きた3月28日から7月16日まで休業し、再開後の同17日~12月末の客数は前年同期比約3割減の約9万7000人だった。
事故は乗船していた船頭4人のうち、船の後方で
基準厳格化
事故後、組合側が注力してきたのは安全対策だ。
組合は船頭の転落を防止するロープを船内に張ったほか、乗客が装着する救命胴衣はひもを引っ張って膨らませるタイプから、操作が不要なものを新たに約3000着購入した。
運航の基準も厳格化した。川が増水すれば危険度が高まるため、運航可能な水位を「85センチ未満」から、事故後は「65センチ未満」に引き下げた。事故時は69センチだった。
この影響で、年間の運航本数は例年の1万1000隻から8000~9000隻に減る見込みだ。
組合は今月から乗船料を4500円から6000円に値上げした。豊田知八代表理事は「安全対策を徹底するため苦渋の決断だった。理解を求めたい」と話す。今月中旬に乗船した京都市の女性(71)は「救命胴衣の着用方法についてきちんと説明があり、安心して乗ることができた。今後も安全対策に万全を期してほしい」と求めた。
市も支援
亀岡市にとって屈指の観光資源の不調は死活問題だ。
市によると、昨年4~5月、市内での観光消費額は事故がなかった場合と比べ3億円少ない7億円と推計。旅館や渓谷を走るトロッコ列車、ラフティング事業者などが打撃を受けたという。
市はこれまで補助金やクラウドファンディングで集めた寄付金計約4100万円を組合の支援に充てた。このほか、川下り船やラフティングのツアー客らを対象に50~100円程度の利用税の導入も検討している。自治体が独自に課税する「法定外目的税」で、川周辺の環境整備や安全訓練の財源に充てたいとし、市や組合などでつくる協議会が議論している。
協議会では「川でカヌーなどを個人で楽しむ人もいる。税の公平性の観点から、徴収対象をどうするか難しい」と実現性を疑問視する意見もあるが、桂川孝裕市長は「川下りを長く維持するには利用税は必要。制度設計を考えたい」と話す。
一般社団法人「水難学会」会長の木村隆彦・明治国際医療大教授は「組合は考えられる安全対策を講じていると思うが、現場は山間部で、緊急車両が近づきにくい場所もあり、通信環境も悪い。安全に利用するための環境整備に行政の関与は一定必要で、幅広く議論すべきだ」としている。