ホテルにも値上げの波 期待の訪日客回復は「年明け」か

ホテル日航大阪は鉄板焼にあえて高価格帯メニューを投入。富裕層の取り込みを狙う=大阪市中央区(田村慶子撮影)
ホテル日航大阪は鉄板焼にあえて高価格帯メニューを投入。富裕層の取り込みを狙う=大阪市中央区(田村慶子撮影)

新型コロナウイルス禍で稼働率が低下し、厳しい経営環境にあるホテル業界にも値上げの波が押し寄せている。コスト高の影響を大きく受けるレストランを中心に、人件費高騰などでサービス料の値上げを余儀なくされる施設も。政府による水際対策の緩和による訪日観光客(インバウンド)の回復もすぐには期待できないといい、値上げによる客離れを防ごうと、各ホテルは国内富裕層を狙う新サービスの導入など、工夫を重ねている。

ホテルニューオータニ大阪(大阪市中央区)は3月から順次、11の直営レストランの料金を5~10%前後値上げした。食用油など数カ月分を一括購入し、宴会は食材の入荷状況に合わせたメニューにして「料金への跳ね返りを抑えている」とするが、それでも食材の仕入れ値だけで3~10%上昇している。

帝国データバンクによると、ウクライナ危機などの影響で小麦粉や食用油が高騰して、令和3年度の飲食店約600社の売上高に占める原価率は平均37・5%と過去10年間で最高となった。喫茶店に次ぎ、上昇幅が大きいのが、イタリア料理やフランス料理などのレストランで、「輸入食材も多く、人件費や光熱費などコスト高の影響をすべて受けている」(情報統括部の飯島大介・主任)という。同様に、ホテル経営で原料高騰などの影響を大きく受けるのはレストランとなっているという。

その中で、堅調な富裕層向け、高額消費を狙って高価格帯の新メニューを投入するホテルも出てきた。ホテル日航大阪(同)は直営の鉄板焼き店「銀杏」で、飼料や育て方にこだわった希少和牛を採用。4月から2万円のコースとして提供している。「宿泊に比べ、レストランや宴会は回復が遅れている。外食ならではの体験を提供し、訪日外国人客も見すえた起爆剤としたい」と呉服弘晶・総支配人は話す。

リーガロイヤルホテル(同市北区)も4月、旗艦店「レストラン シャンボール」のコースを刷新したうえで約4~5割値上げした。値上げに伴い、着席前にスタッフとの会話や前菜を楽しみながらメニューを選ぶサロンスペースを設け、店内には絵画などアートを増やすなど演出を強化、付加価値を強調した。担当者は「館内のほかのレストランと価格帯のすみ分けを図っている」と話す。

一方、宿泊や飲食、宴会料金に一律加算されるサービス料を値上げするホテルも相次いでいる。帝国ホテルは4月から東京、大阪、長野・上高地の傘下ホテルを対象に、パレスホテル東京(東京都千代田区)は6月から、オークラ東京(港区)も7月から、いずれも10%のサービス料を15%に値上げする。帝国ホテルは「お客さまの安全・安心のため」と述べ、新型コロナウイルス感染対策や防災にかかる費用を値上げの理由にあげるが「企業努力では(資金の捻出が)難しい状況」として原材料や人件費などコスト増が背景にあることを示唆している。

政府が進める水際対策の規制緩和に関して「回復に向けたステップの一つでありがたい」と期待する声も多いホテル業界。一方で「インバウンドが増えるのは来年に入ってからという認識」(京都市内のホテル関係者)という声も多く、業績の本格回復まで、原材料や人件費の高騰を受けたホテルの値上げの動きは続きそうだ。(田村慶子)

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