出島メッセ長崎 コロナ禍での開業 打撃のMICE 地域経済活性化の起爆剤に

コロナ禍の船出となった「出島メッセ長崎」(中央)。地域経済活性化の起爆剤として注目が集まる=長崎市

 10月下旬。11月1日の開業を目前に控えた長崎市尾上町のMICE(コンベンション)施設「出島メッセ長崎」では、国際的な会議の業界団体、「国際会議協会」(ICCA)の年次総会が開かれていた。
 オンラインでの参加者は正面モニターに大きく映し出された。海外から出席のある男性がおどけて言った。「もうハグの仕方を忘れてしまったよ。『オンラインハグ』をしてみようか」。会場は笑いに包まれた。
 この中で最新技術について議論。新型コロナウイルスが世界的に流行した1年半の間に、国際会議の在り方は様変わりし、デジタル化は7年分加速したことが報告された。
 コロナ禍での開業となった出島メッセ長崎。当面オンラインと対面を組み合わせた「ハイブリッド型」での運用が進む。こうした状況に対応するため、大容量の光ケーブルを全てのホール、会議室に引き込んだ。
 だが、MICE業界はコロナ禍で大きな打撃を受けている。
 2万平方メートルの展示ホールをはじめ、多種多様なホール、会議室を備える国内最大手のパシフィコ横浜(横浜市)。年間来場者数は近年、400万人前後で推移していた。しかし、昨年度は感染拡大に伴い臨時休館したほか、イベントや会議の開催件数も激減。年間来場者数は前年度比88%減の45万人にまで落ち込んだ。
 規模縮小やオンラインに切り替えたものも多い。担当者は漏らす。「今後イベントがコロナ禍前と同じ規模で開催できるかどうか。状況はまだ見通せない」
 出島メッセ長崎は来場者数の目標を年間61万人と設定。横浜の状況からすると、高いハードルにも映る。市によると、9月末現在の予約状況では、年間57万人ほどの来場を想定。これを、いかに実績につなげられるかが課題となる。
 JR長崎駅西口前に立地し、利便性は高い。一方、駅周辺商店街は反対の駅東側に位置することもあり、まだ多くの人が流れ込んでいない。ただ、長崎駅前商店街組合(46店舗)の岩崎誠一理事長は、イベント開催などにより「刺激にはなっている」と明かす。
 来年秋には九州新幹線長崎ルートが暫定開業する。2024年には「長崎スタジアムシティ」(幸町)の開業が予定され、街は大変革期にある。コロナ禍で商店街でも廃業した店があり、岩崎理事長はこう期待を込める。「100年に一度と言うが、恐らく最初で最後の大型再開発だろう。地元にお金が落ちる仕組みを皆で考えていきたい」
 田上富久市長は「学びや出会い、ビジネスチャンスといった価値を見いだし、長崎に活力をもたらしていく場所にしたいと考えている」と抱負を語る。コロナ禍の船出となった出島メッセ長崎は、地域経済活性化の起爆剤となれるのか。これまで以上に注目が集まる。

◎「交流の産業化」目指す まち全体でもてなし 選ばれる都市へ

 11月4日、長崎地域の産学官7団体のトップが顔をそろえた「長崎サミット」。出島メッセ長崎の開業を祝う雰囲気が漂う中、MICE(コンベンション)施設への待望論が強かった経済界から歓迎する声が相次いだ。「長年の念願。開業を契機としたメリットをどう最大限にするかが大事」。長崎商工会議所の宮脇雅俊会頭は言葉に力を込めた。

「交流の産業化」への期待がかかる出島メッセ長崎(中央手前)

□ 駅に直結
 「長崎駅西口に直結する好立地であり、感染症対策や情報通信環境が配慮され、全国に誇れる施設。今までできなかった大型の会議を誘致することが可能となった。ハイグレードホテルも隣接し、富裕層の取り込みなどで観光消費拡大に期待を持てる」。宮脇会頭は、立地条件の良さやコロナ禍に対応した施設を評価した上で、今後の課題をこう指摘する。
 「産学官が連携し、継続的なMICE誘致を行い、地元企業にその効果が波及するよう、事業者のネットワークを機能させる必要がある。さらに、MICE参加者を“まちなか”に呼び込むなど、回遊性のある動きに結び付けることも重要」
 これまで市内で開くMICEは、約40の文化施設や体育施設を活用。分科会会場がメイン会場と離れる場合があり、参加者の移動負担が課題だった。一方、MICE参加者の消費額は一般観光客の約2.5倍とされ、市は交流人口の増加による地域経済の活性化、いわゆる「交流の産業化」を目指し、「出島メッセ長崎」整備に踏み切った。MICE開業後1年間の目標は開催件数775件、利用者約61万人、経済効果は114億円と試算する。

食をテーマにした商談会で開幕した「長崎 MICE EXPO」=11月12日、出島メッセ長崎

□ “稼ぐ力”
 地元でのビジネスと市全体へ人の流れの創出(まちMICE)-。交流の産業化に必要な準備は着実に進んでいる。
 土産品や記念品、感染症対策アイテム、広報支援、飲食サービス、アトラクション-。MICE開催に関連した業務の受注拡大を目指し、2016年に発足したのは「長崎MICE事業者ネットワーク」。約150社が加盟し、事務局の長崎国際観光コンベンション協会のDMO(観光地域づくり法人)推進本部を中心にネットワークを構築。誘致から開催前後までワンストップで支援するサービスを整えている。
 この間、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG、福岡市)が19年11月から約2年間、地元事業者の関連ビジネス参入を促す勉強会「長崎MICEスクール」を開いた。先進事例やワークショップを交えたビジネス展開を学んだ約30社が修了。自らビジネスチャンスをつかみ、“稼ぐ力”を磨いた。FFGと十八親和銀行主催のこけら落としイベント(11月12~14日)では、スクールで学んだイベント会社、広告代理店が中心に企画、運営し、好スタートを切った。
□ 唯一無二
 経済波及効果を高める一つが、会議前後のユニークベニュー(特別な場所)での唯一無二の体験。歴史的建造物など開催地らしさを感じられる特別な場所で懇親会などを開き、地域の特性を印象付け、満足度を高める取り組みだ。
 長崎の場合、グラバー園や長崎孔子廟(びょう)などの歴史的建造物を活用したメニューをそろえ、長崎のまち全体でもてなす狙い。同協会はユニークベニュープラン、体験プログラム、飲食店ガイドなどを作製し、会議前後の楽しみ方を提案する。同協会の豊饒英之DMO推進本部長はまち全体を生かした人の流れを生む狙いをこう語る。「まちの魅力を探し、磨く。MICE主催者や参加者に魅力を伝え、評価してもらうことの繰り返しで、長崎が選ばれる都市になることを目指している」
□ 予約順調
 施設整備費約216億円。このうち約6割は地方債が占め、市の財政に重くのしかかる。整備計画が持ち上がった後、「箱もの」への批判もあり、市議会での関連予算否決や住民投票の動きなど紆余(うよ)曲折を経てきた。
 コロナ禍も影を落とす。市の観光統計によると、19年のMICE開催件数は1619件、42万6786人が参加。しかし、20年は前年比約8割減の278件。市は「(出島メッセ開業)2年目以降の予約も順調」としているが、想定通りの利用者数や経済波及効果を疑問視する声がくすぶる。
 完成がゴールでなく、MICEを舞台にした経済活性化は共通認識だが、MICEを拠点とした経済や学術交流の活発化、産学官の枠を超えた新しい産業創出(オープンイノベーション)への期待も大きく、市に課された“宿題”は山積している。

◎宿泊関係者 相乗効果見込む 高級路線との住み分け「可能」 ヒルトン長崎

 出島メッセ長崎と一体開業した高級ホテル「ヒルトン長崎」。米ホテル大手ヒルトンブランドの進出を、長崎市内の宿泊関係者は「相乗効果が見込める」と歓迎。高級路線との住み分け需要に期待を込める。
 ヒルトン長崎は、ヒルトンの国内19カ所目のホテルで、九州では福岡に次いで2カ所目。運営はフランチャイズ契約を結んだ松藤グループ(同市)のグラバーヒルが担う。ヒルトン広報によると、進出の背景には▽長崎の魅力的な観光資源▽隣接する出島メッセ長崎や西九州新幹線の開業▽海外からのクルーズ船を含めたインバウンドマーケットへの期待-がある。

開業して約1カ月になるヒルトン長崎=長崎市尾上町

 既存の宿泊関係者は、ヒルトンブランド進出による相乗効果も見込む。県旅館ホテル生活衛生同業組合の塚島宏明専務理事は「顧客満足度の高いアッパーグレードホテルが存在することで地域の評価が高まる」と歓迎。ヒルトン近くに立地するホテルニュー長崎の運営会社プレミア・ニュー長崎の古賀哲馬社長は「1部屋の料金が約1万円違い住み分けは可能。経済、観光発展のため互いに協力していきたい」。魅力向上へ客室などの改装を計画中だ。
 同組合に加盟する同市内宿泊施設43事業者の部屋数は計3895室(10月末現在)。学会の誘致やその際の宿泊手配などを手掛けるコンベンションリンケージ長崎(同市)によると、関係者の出島メッセへの関心は高く、コロナ禍が収束すれば、数千人規模の学会などが見込まれる。担当者は「参加者の求めるホテルの価格帯はさまざま。既存の宿泊施設の需要が崩れることはない」とみる。
 市内外のシティーホテル総支配人らでつくるGM会は、これまでも定期的に集まり、情報交換をしてきた。ライバルではあるが、困ったときは助け合ってきた仲間でもある。会長はANAクラウンプラザホテル長崎グラバーヒル時代から努めてきたヒルトン長崎の阿倉宏隆総支配人。「GM会として国内外に積極的に誘致を働き掛けていく予定。相乗効果で盛り上げていく」と、意欲を見せている。


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