イングランドの渡航制限、大幅変更へ 日本からもワクチン接種完了者の入国簡易化

People on the beach at Izmir, Turkey

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新型コロナウイルスの感染対策としてこれまで対象国の状況によって規制を分類していた英イングランドで、これが10月4日から大幅に変更され、ワクチン接種を完了している人の入国が簡易化されることになった。イングランドではこれまで交通信号に似せて、「赤、黄、青」の3段階に対象国を分類していた。日本は現在、「黄」リストに含まれ、イギリス入国前後のCOVID-19検査や、入国後10日間の隔離などが必要とされるが、これが10月4日から入国後の検査2回のみに大幅に緩和される見通し。

英政府によると、「10月4日午前4時より、イングランドへの国際渡航の規則は、赤・黄・青の交通信号システムから、赤リスト国のみの設定と、それ以外の国からの入国については簡素化した渡航手順へと変更する」ことになる。イングランド入国の14日前に対象国の保健当局が定めたワクチン接種を終えている人は、入国後に2回のPCR検査を受けて、居場所追跡を可能にする情報を登録すれば、出発前のウイルス検査や入国後の10日間の自主隔離が不要となる。対象の国には、日本も含まれている。

イギリスのジュリア・ロングボトム駐英大使は18日午前、「10月4日から英国の水際対策が変わります。日本からはワクチン接種2回済みの渡航者が検疫なしに入国できるようになります」とツイートした。

加えて、グラント・シャップス運輸相は、赤リスト以外の国から入国する人の、入国2日目のPCR検査について、10月後半からはより安価で迅速な「ラテラルフロー」検査に切り替えることも可能になると述べた。

シャップス運輸相はさらに、厳しい入国制限の課せられている赤リストから、今月22日にも、トルコなど8カ国を外すと述べた。これによって、トルコなどからイギリスに帰国する人たちは、入国後に隔離専用ホテルで隔離する必要がなくなる。

シャップス運輸相は、新しい渡航ルールは「少なくとも新年まで」は継続する方針を示し、「もうこれだけ大勢がワクチンを接種して前より確かな情報が得られている今、役所手続きや、あまりにたくさんの検査をなくして、旅行しやすくすることが目的」だと述べた。

イギリスの渡航制限は、イングランドについては英政府が決めるほか、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドについてはそれぞれの自治政府に決定権がある。パンデミック中の渡航制限について、これまで3自治政府はおおむね、英政府の取り決めに沿った規則を実施してきた。

ウェールズ自治政府は、イングランドと同様、トルコ、パキスタン、モルディヴ、エジプト、スリランカ、オマーン、バングラデシュ、ケニヤを赤リストから除外すると発表した。検査方法の変更については「慎重に検討」するものの「リスクは伴う」としている。

スコットランド自治政府は、「赤・黄・青」の仕組みは簡素化するものの、「公衆衛生への影響が大いに懸念される」ことから、PCR検査の要件は残す方針。

イギリスの旅行産業は、英政府の決定を歓迎している。

英航空団体「エアラインズUK」は、「イギリス航空業界の再開に一気に近づく」、「カンフル剤」だと歓迎した。

ロンドン・ガトウィック空港のスチュワート・ウィンゲイトCEOは、利用者は「クリスマス前後の予約が前より安心して」できるようになると述べ、さらに「旅行したいという要望はかなり高まっている」と話した。その上でウィンゲイト氏は、居場所追跡フォームへの記入などの要件も併せて廃止すべきだと述べた。

ブリティッシュ・エアウェイズのショーン・ドイル会長は、低リスク諸国から入国する渡航者のうちウイルス検査で陽性判定が出る人は全体の1%未満だと指摘。ワクチン接種を完了している渡航者への検査は、「他の大半の欧州諸国と同様」全廃すべきだと述べた。

英下院運輸委員会のヒュー・メリマン委員長(保守党)は、10月の学校のハーフ・ターム休暇(学期半ばの連休)前に実施される今回の規則変更は、イギリスの旅行業界に直ちに有用な効果をもたらすと期待を示した。

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<解説>変異株はすり抜けるのか――ジム・リードBBC健康担当記者

英政府の科学顧問たちは今夏の間、感染力が高い変異株や、現存するワクチンが効かない変異株が広がることが、公衆衛生にとって最大の危機になると警告していた。

すでにそういう苦い思いは経験している。今年4月に、イギリスで最初にデルタ変異株が確認されたのは、インドからの渡航者だった。

デルタ株はその後、国内で素早く広がり、6月にはイギリス国内の主流株に置き換わった。その後の研究から、デルタ株が従来株より感染力が高く、重症化と入院リスクも高いと判明した。

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ワクチン接種を終えている渡航者全員が、なぜ帰国2日後に私費でPCR検査を受けなくてはならなかったのかというと、新しい変異株の検知が一番の理由だった。高価な検査が必要なのは、検体の塩基配列を調べ、新たな危険な変異株が国内に入ってはいないか確認する必要があるからだと、政府は説明していた。

しかし、このルールに批判的な人たちは、実際にはこの方式で分析できる検体の割合はきわめて低いと指摘していた。検査がうまくいくには、一定量のウイルスが必要だというのも理由のひとつだった。

英政府の最新データによると、8月12月から9月1日にかけてイギリスに入国した陽性判明者のうち、ウイルスの塩基配列解析に成功したのは約25%に過ぎなかった。

新しい渡航ルールのもとでは、ワクチン接種を2回終えている渡航者は、PCR検査より安価で自宅で受けられるが精度の低いラテラルフロー迅速検査を選べるようになる。ラテラルフロー検査では、ウイルスの遺伝子は分析できないため、迅速検査で陽性となった人は、国民保健サービス(NHS)の負担でPCR検査の受信が求められる。

ただし、入国者の検体をすべて自動的にPCR検査しなければ、国内に入り込む変異株は増えて、将来的に新型コロナウイルスに対するこの国の防衛を損ないかねないという懸念も出ている。