ANAホールディングス(ANA HD)は2021年4月30日(金)、2021年3月期決算を発表しました。売上高は前年比63.1%減の7,286億円、営業損失は4,647億円、経常損失は4,513億円、純損失は4,046億円でした。新型コロナウイルスの影響で、世界各国の入国規制、外出自粛で人の移動が激減。ANAグループも旅客需要の減少に伴い、売上高は前期比63%減でした。ただし、貨物は必需品の輸送、海上輸送の混雑などで需要が高く、この取り込みを図り過去最高の貨物収入となりました。
2022年3月期の見通しは、売上高1兆3,800億円、営業利益280億円、経常利益50億円、純利益35億円と黒字回復を予想しています。当面は、感染状況や各国の入国規制を注視しつつ、当面は運航便数を抑制します。ただし、需要回復局面を捉え機動的に運航便の再開と積極的な需要取り込みを目指します。国際線貨物は好況が続くと見られ、過去最高の収入を記録した2021年3月期と同じく、積極的な需要取り込みを継続します。
■2021年3月期、航空事業の概況
航空事業の旅客部門は、国際線の旅客収入は前期比92.7%減の447億円、国内線の旅客収入は前期比70.1%減の2,031億円、格安航空会社(LCC)部門は、73.1%減の220億円でした。いずれも供給量を示す旅客輸送力の座席キロで前年から大きく絞っており、国際線は79.0%減、国内線は54.1%減、LCCは55.5%減で、入国規制、需要減少に対応したほか、感染者数の動向、緊急事態宣言の発出などにあわせた柔軟なスケジュール編成を実施しました。
貨物では、国際線旅客便の大幅な供給減の影響を受けたものの、大型貨物機のボーイング777型貨物機を就航させ、貨物専用機による臨時便、旅客機を使用した貨物臨時便を大幅に増やしました。供給量を示す輸送重量は24.4%減でしたが、単価上昇などもあり、国際線貨物収入は前期比56.3%増の1,605億円となりました。なお、国内貨物輸送は、18.2%減の208億円でした。
■2021年3月期、営業費用の概況
2021年3月期は大幅な赤字を記録し、各四半期決算でANAは経費削減を強調してきました。営業費用の内訳を見ると、この数年で積極的な投資を続けてきたことから減価償却費は2020年3月期と比べ増加しているものの、その他は全て前年を下回っています。特に、供給量を減らしたことから燃油関連、政府からの減免措置が講じられた空港使用料は前期比40%以下に抑えられています。機材のリース費用も、退役機なども多くあったことから、前期の82%に抑制されています。
羽田国際線の拡大などを視野に、大幅に増やしていた運航乗務員、客室乗務員などを含む人件費は、2019年3月期まで拡大基調でしたが、2020年3月期には3%減とコロナの影響が出始め、2021年3月期は19%減としています。削減しにくい人件費に切り込みつつ、人員配置の転換などで需要回復期の反動増に備えているとも見受けられます。実際に欧米の航空会社のように解雇は実施しておらず、2022年3月期に黒字転換するとの予想のように、準備を整えていた1年とも解釈できそうです。
■ANA HD 2016年以降の営業費用概況営業費用(億円) | 2016年3月期 | 2017年3月期 | 2018年3月期 | 2019年3月期 | 2020年3月期 | 2021年3月期 |
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燃油費・燃料税 | 3,062 | 2,736 | 3,006 | 3,337 | 3,144 | 1,096 |
空港使用料 | 1,165 | 1,145 | 1,224 | 1,216 | 1,201 | 458 |
航空機材賃借費 | 957 | 1,000 | 1,104 | 1,234 | 1,306 | 1,075 |
減価償却費 | 1,320 | 1,338 | 1,442 | 1,529 | 1,682 | 1,689 |
整備部品・外注費 | 1,107 | 1,124 | 1,669 | 1,570 | 1,773 | 1,094 |
人件費 | 1,791 | 1,854 | 2,019 | 2,078 | 2,016 | 1,637 |
販売費 | 1,059 | 927 | 1,026 | 1,078 | 1,051 | 472 |
外部委託費 | 1,861 | 2,013 | 2,236 | 2,396 | 2,566 | 1,828 |
その他 | 1,808 | 1,827 | 2,013 | 2,098 | 2,138 | 1,164 |