欠かせない外国人労働者 宿泊業など人手不足が常態化に

荻野好弘 国方萌乃
[PR]

 深刻な人手不足が続くなか、岐阜県内で働く外国人労働者が増えている。外国人材の活躍なしには持続的な企業活動がさまざまな業種で難しくなってきている。支援を強化するなど県政の課題のひとつとなっている。

 インバウンド(訪日外国人)をはじめ、国内外から観光客が押し寄せる高山市。雪が舞う冬季でも「古い町並」には観光バスが続々と到着し、スマホで記念撮影に興じる人たちでにぎわう。ホテルの開業もこの数年相次ぐが、宿泊業の悩みの種は人手の確保だ。

 1月初め、老舗の「ひだホテルプラザ」。玄関の自動ドアが開き入ってくる宿泊客に、ピンと背筋を伸ばしていたタマヨ・ルイズ・ダネラさん(30)が深々と頭を下げる。大型バスが玄関に横付けされると、ほかのスタッフと歩み寄ってトランクからスーツケースを降ろすのを手伝う。

 台湾からの団体客に英語で話しかけながらフロントへと案内し、チェックインが終わった人をエレベーターに誘導した。

 キューバ出身。日本大使館で勤務経験があり、母国語のスペイン語のほか、日本語の日常会話もできる。高度人材向けの「技術・人文知識・国際業務」のビザを取り、昨年9月から働く。

 インバウンドへの対応が欠かせない老舗の観光ホテルにとって貴重な人材だ。ダネラさんは「ホテルの役に立ちたい」と話す。

 同ホテルは複数のレストランや大小の宴会場、温泉大浴場を備え、正社員約100人を含め約150人の従業員がいる。外国人正社員は5人。ダネラさんら接客などの3人に、ネパール出身の料理人2人が昨年末に加わった。

 熊崎洋・宿泊部支配人(49)は「昔ならフロント業務だけをしていた社員も、手が空いていれば他部署を手伝う形で回している。今後も考えると海外の人材は必要不可欠」と話す。

 高山市ではコロナ禍前の2019年、過去最高に近い227万人が宿泊。業界では24年はインバウンドの需要が大きく、19年に劣らない数字になるとみられている。

 主に市街地の宿泊施設でつくる飛驒高山旅館ホテル協同組合によると、人手不足は常態化し、食事の提供を中止したり自動チェックイン機を導入したりする施設が増えている。組合の中畑稔常務理事は「外国人を雇うには寮などの住まいを用意する必要もある。中小施設では人手が欲しくても受け入れ環境を整えるのに難しい面がある」と打ち明ける。

     ◇

 県内で働く外国人は、人手不足を背景に右肩上がりで増えている。岐阜労働局への届け出では、県内の外国人労働者は4万28人(2023年10月時点)、外国人を雇っている事業所は5397カ所(同)で、いずれも過去最高を更新した。

 産業別では製造業で働く外国人が最多で全体の49.9%を占めた。ハローワークの管内別でみると、高山では宿泊業・飲食サービス業に携わる人が4割近く、大垣や関、中津川では製造業が6割超となっており、外国人労働者が企業や地域経済を支えるための欠かせない存在になっている。

 規模別では従業員が30人未満の事業所が全体の約4割を占める。経営体力や知名度がある事業所に比べると、日本人の採用が難しいことも一因になっているとみられる。

 中野俊彦さん(50)が高山市で営む農場では、従業員約20人のうち4人が、特定技能と技能実習の在留資格で働くベトナム人だ。レイティ・ロアンさん(30)は「日本人やベトナム人の仲間とおしゃべりしながら仕事するのが楽しい」。収穫期の夏はさらに特定技能が2人増える予定だ。

 最近はハローワークに求人を出しても、まったく連絡がないこともあるといい、中野さんは「事業を続けるには、今や外国人材はなくてはならない」と話す。

 県は今年度から外国人と県内企業のマッチングや受け入れ企業のサポートといった支援事業を始めた。企業側からは「制度がわかりにくい」「特定技能の外国人が転籍して都会へ出ていってしまう」などの相談が寄せられており、外国人材の確保とともに県内での定着を図っていくという。

 県の担当者は「以前から続く人手不足を外国人材で補ってきた側面がある。岐阜が外国人に選ばれる県になるために、働きやすい職場環境を整えていく必要がある」と話している。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【春トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら

この記事を書いた人
荻野好弘
高山支局長
専門・関心分野
地方文化、地方行政、移民