北陸新幹線、迫る開業 観光促進と復興支援でゆれる北陸

長屋護
[PR]

 「100年に1度のチャンス」と、北陸新幹線の金沢―敦賀開業に期待を寄せる石川、福井両県の観光産業。だが、開業まで2カ月半となった元日に襲った能登半島地震で状況は一変。それでも、観光促進と復興支援との両立を掲げ、高まった機運が下がらぬよう模索が続いている。

 「午前6時にホテルを出発して能登に向かい、部屋に戻るのは午後8時ごろ。部屋に寝に戻った形跡のないお客さんもいます」

 1月9日から能登半島地震の復旧作業関係者の宿泊を受け入れた「ザ・ホテル山楽・金沢」(金沢市)の北谷公人・総支配人はこう話す。これまでに客室の半分ほどを占めていたのではとみている。

 1月の客室稼働率は7割を見込んだが、地震後はキャンセルで激減。それが、ほぼ予想の水準まで戻った。

 ただ、1月は2022年12月の開業以来、最も大きな赤字になった。その要因は平均客室単価が下がったためだ。通常は市内トップクラスの約2万8千円だが、約1万円下がった。

 山楽は、2人以上の利用を想定した全室32平方メートル以上の客室が特徴で、外国人観光客の利用も多い。一方、復旧関係者は1人での利用が中心だからだ。

 ホテルの損益を考えれば悩ましい選択だが、「復旧関係者の受け入れを優先した」と北谷さん。2月も赤字だったが、復旧関係者の利用が落ち着いてきており、新幹線開業と、12日から石川県内を対象に始まった「北陸応援割」の予約も好調で、3月の黒字化に期待を寄せている。

 富山国際大の大谷友男准教授の研究室などが、宿泊予約サイトのデータから算出した北陸の宿泊稼働指数は、富山と石川では地震直後に下がったが、1月中旬から回復。しかも、コロナ前と比べて高くなっているという。復旧作業関係者と2次避難者の利用が要因とみる。

 芦原温泉、福井、越前たけふ、敦賀と4駅が開業する福井県。地震による建物や人的被害はさほど大きくはなかったが、震度5強を観測したあわら市を中心に、宿泊施設のキャンセル被害は約13億4千万円(1月25日時点、県集計)に達した。

 開業に向け、4駅周辺は再開発事業も進む。

 福井駅前では、世界最大のホテルチェーン「マリオットグループ」の「コートヤード・バイ・マリオット福井」(252室)が開業の前日にオープンする。県内初の外資系ホテルだ。

 総支配人の千代間淳氏は「地震でキャンセルもあったが、それ以上の引き合いがある」と話す。米紙ワシントン・ポストは、人混みを避けて今年旅すべき場所として福井県を紹介した。

 福井市国際室によると、地震以降も欧米メディアからの問い合わせは続いており、「これまでにない盛り上がりを感じる」(市国際室)。インバウンドに弱い福井だけにチャンスだ。

 北陸3県の温泉地は、15年の北陸新幹線金沢開業よりも前に「北陸観光協会」を立ち上げ、連携してPR活動をしてきた。温泉地での競争もあるが、まず北陸に来てもらい、そのうえで各旅館が切磋琢磨(せっさたくま)するという考えだ。

 同協会長で、あわら市観光協会会長の前田健二さんは言う。「北陸から離れるお客さんを食い止める。それが最終的に(石川県の)和倉、輪島が復興したときの支援につながる。営業できる旅館は営業し、地域経済をまわすことが大事だ」(長屋護)

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません