沖縄にテーマパークも マーケター 森岡毅氏の「勝ち筋」とは

沖縄にテーマパークも マーケター 森岡毅氏の「勝ち筋」とは
2024年、日本の“勝ち筋”はどこにあるのか。観光産業を切り口にその答えを見いだそうとしているのが、大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンをはじめ、数々のテーマパークなどを再生させたことで知られるマーケターの森岡毅さんです。

「消費者とは誰なのかをまず考える」と話す森岡さん。日本の観光業をどう活性化していこうとしているのでしょうか。“現代最強のマーケター”とも評される、森岡さんの「勝ち筋」に迫るとともに、ビジネスのヒントを探ります。

(聞き手:神子田章博キャスター 制作: 政経・国際番組部ディレクター 家坂徳二)

勝ち筋1 消費者を徹底的に理解する

森岡さんの会社がいま新たな事業を進めている地域の1つが沖縄県です。本島北部のゴルフ場跡地におよそ700億円を投じ、沖縄の自然や文化を生かしたテーマパークとしてオープンさせる予定です。
森岡さんが事業を展開するにあたって最も大切にしていることの1つが、「消費者を徹底的に理解すること」だといいます。

沖縄でのテーマパークの開設もその徹底した分析が生かされています。森岡さんはこれまでの経験から、飛行機で4時間以内の距離であれば、リゾートの選択肢になりうると考えていました。
その4時間以内の距離にはアジアの多くの国や地域が含まれ、20億人のマーケットがあると見込んでいます。

また、徹底したニーズの調査で、彼らが沖縄の海だけでなく、森や山にも魅力を感じていることがわかったといいます。
森岡さん
「例えば、インバウンドの方々にもっとたくさん沖縄に来ていただき、より長く滞在し、楽しみながらよりお金を落としていただきたいと思うのであれば、彼らが求めるように沖縄の魅力を見せていかなければならない」
沖縄の山や森、大自然の景色などを体感できるというテーマパーク。森林を一望できる気球や森の中で恐竜から逃げるアトラクションなどが整備される予定です。

ビジネスで消費者の心をいかに捉えるのか?森岡さんは「Who(誰に)」「What(何を)」「How(どのように)」を一気通貫して考えることが重要だと話します。
森岡さん
「やはり大事なのは、消費者が誰なのかということを最初に考えるということ。その場所に来てほしいと思う人たちがまさに消費者なんですけど、その人たちの頭の中に何があるのかということを徹底的に考える作業、考える仕事が、すべてのスタートなんですよね。

消費者(Who)のことを考えた上でその人たちに刺さるように、体験したいもの・価値そのもの、つまり「What」を考えるんです。

その人たちが求めているものを理解した後に、自分たちが持っているものと、その欲しいものがどうはまり得るか(How)を考える。

『これはこうできるんじゃないか』『こういう魅力で響かせることができるんじゃないか』とか、いろいろなことを考えなきゃいけないんですね。

この「誰」に「何」をというのがすごく大事で、その実行フェーズを失敗すると(自分たちの提供しようとしている商品やサービスが)強い価値として消費者に伝わっていかなくなってしまいます」

勝ち筋2「眠れる資産」を生かす

森岡さんのもう1つの勝ち筋に「眠れる資産を生かす」という考え方があります。

その考えが体現されている1つの例が、ことし3月に都内にオープンする予定の新たな施設「イマーシブ・フォート東京」です。施設名にもある「イマーシブ=没入型の体験」が最大の特徴です。
森岡さん
「今までのテーマパークというのは『行われているものを見る』『演者たちがやっているものをこちらで見る』という第三者的な視点で見るものであり、乗り物に乗って、100人中100人が同じような体験をするものでした。

これは従来のテーマパークの良さではあるけれど、今回は全く違う考え方で、お客様が実際に演じられている中に入り込みます。

たとえば、事件の当事者になったり、自分が犯人にされたり、自分が本当に逃げないといけなくなったり、自分が持っている重要な情報を誰かに届けるというふうにストーリーが変わってきたり…。

これが『完全没入』の体験で全く新しく、かつ刺激の強いエンターテインメントとして、いま世界でどんどん人気が出ています」
実はこのテーマパークには、少し変わった特徴が。それは、おととし3月に営業を終了した「ヴィーナスフォート」の施設を、いわば居抜きの形で再利用していることです。もともとあったヨーロッパ風の内装が、パーク作りに生かせると考えたのです。
森岡さん
「もともとあった施設をうまく集客施設として活用することで、建物の壁や天井を作る設備投資費を抑えることができます。たとえば、お台場にあったヴィーナスフォートの場合は、もともとあったヨーロッパ風の、ものすごくお金をかけた造作を、逆にプラスの資産だと思って使えば、なかなかの没入感をつくれます。

特徴がプラスになるように、お客さんがかけているメガネのほうをかえてしまうとその特徴がうまく使えるので、全部さら地にして造り直すよりもはるかに費用を抑えることができる」
いまある資産を活用するという森岡さんの戦略。その戦略を成功に導くために大切なのが、「アイデア」だと話します。
森岡さん
「ここで一番重要になるのが『アイデア』なんですよね。われわれが今、測定できる需要に対して、それよりもいかに設備投資を抑えて、その需要が作れるだけおもしろくなるように、どうやってアイデアを練っていくのかということが一番のキモになってきます」

日本の観光業 進むべき道は

コロナ禍で大きな打撃を受けた日本の観光業。去年はインバウンドの消費額は5兆円を突破し、過去最高となりました。

オーバーツーリズムなどの課題にも直面するなか、森岡さんは国や地域として、こうした課題の克服に取り組むとともに、観光業をさらに大きな産業として育てていく必要があると話します。
森岡さん
「地域の魅力を発信すればするほど、日本に来ていただけるインバウンドの皆さんの数が増えていきます。それが各地域で実際に日常生活に不自由が生じていらっしゃる方々にとっては、とてもきれい事では済まされない事だと私も認識した上ですが、それでも日本全体で見たとき、日本を好きな人が来て、喜んでお金を使い、帰っていただくというのは、本当にすばらしいことだと思うんです。

ダボス会議で言われたように、日本は観光の魅力が世界で1位なので、人口減少が続く中で、観光産業はもっともっと稼いで、人々のための糧を稼ぎ出さないといけないと思います。

未来のために、いま力をもっているわれわれ大人たちがやるべきことは、次の世代の食いぶちをつくること。観光産業は、国全体を見たときに日本の食いぶちになっていますし、豊かな国であり続けたいなら、観光インフラは整えざるをえないと思います。

国・地域として観光産業に投資すると腹をくくったら、やるべきことは見えてくると思います」

できる範囲を「2歩」超えよう

長年テーマパーク復活の最前線に立ってきた森岡さん。インタビューの最後に、観光業を超えた日本の勝ち筋はどこにあるのか聞きました。

森岡さんが語ったのは、自分ができると考える範囲を、「2歩」超えて、あえて少し広げてみようということです。
森岡さん
「いま自分が生きている範囲の中でも、やっぱりみんなで自分ができる範囲を2歩超えて、自分が行動するということをみんながやったら、みんながその意識を持ったら大きく、集団として力を発揮するのではないかなと思います。

少し引いて見たとき、個々人はいろいろと日々がんばっていらっしゃるんです。でも自信を失っていて、よく見ると自分のとれるリスクの範囲から外に出る人の割合というのはまだまだ少ないと思うんです。

人が何かをやろうとしていること、新しい変化を起こそうとしている事に関して、すごく安全な空間で論評や批評・批判ばかりするのではなく、その方が何かをやるべきだと思うんです。

やはり新しい価値観を見つけて、産業化して、変化を起こしていかないといけない。ほっといても誰かがしてくれるという考え方では、過去30年か40年、停滞し続けた日本の延長線上にしかないと思うんです。

私も自分が行動することによって私や仲間たちといろいろな課題に取り組んでいく1年にしたいと思っています」

(1月12日 「おはBiz」で放送)
おはよう日本
おはBizキャスター
神子田 章博
1987年入局
経済記者として日米自動車摩擦や山一破綻などの金融危機、アメリカで同時多発テロ事件、中国では“一帯一路”戦略とホットな現場を取材
政経・国際番組部 ディレクター
家坂 徳二
2017年入局
おはよう日本部、大阪放送局を経て2023年から現所属 子どもを連れてテーマパークに行くのが将来の夢