「お墓参り」という観光スタイル ルーツたどる日系人ツアー続々と

通訳ガイド・細川治子
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しこく宝島

 先日放映されたNHKの紀行番組「新日本風土記」の「瀬戸内の春」編で、アメリカ・ハワイから来日したツアーグループが登場する一幕があった。ご覧になった方はいるだろうか。私はガイドとして同行していた。

 今春の桜シーズンに合わせた日本旅行に、山口県周防大島・泊清寺での墓参りが組み込まれていた。日系人が多くを占めたツアー客19人の約半数がこの島にルーツを持っており、先祖の墓が寺にある人もいた。

 バスで寺に到着すると、住民の歓迎と取材が待っていた。日系アメリカ人3世のリチャード・ヤナギハラさん(76)は、兄のロナルドさんらと墓に花を手向け、英語で語った。「祖父も父もここに埋葬された。だから私もここに埋葬されたい」

 教育熱心な親に育てられ、兄とともに医者となった。多忙な生活の中でも3人の子どもの七五三参りの機会に来るなど、島との縁を大切にしてきた。「自分の遺灰をいつか運んできて欲しい」と託された息子のジョンさんは「帰ってくる場所があるのはいいことだよね」と理解を示した。

 周防大島は明治以降、約5千人もの島民がハワイに渡ったという「移民の島」だった。墓参りの前に立ち寄った「日本ハワイ移民資料館」では、サトウキビ農園などで働き、新天地で苦労した人々の歴史を知ることができた。日系人グループも時々来訪するという。渡航者の名前を検索するコーナーには人だかりができていた。

 先祖の故郷を訪ねても、時が経つと、かつての住居や親戚を見つけるのは難しい。そんな時、お墓が大事なよりどころになる。実はこのツアーの直前にも、高知県で日系人家族の墓参りに付き添った。

 墓地は仁淀川町役場に面した高台にあり、長年、管理をしている地元の男性が案内してくれた。風化した墓石に刻まれた文字から、1913年、ハワイに移民した一族の祖先の名前が読み取れた。一行15人は神道式にサカキと米粒を供え、手を合わせた。

 ツアーを企画したのは日系4世のション・峰行・イヤリングさん(35)。祖父と日本語で会話したくて日本の大学に留学し、学んだ。今回、ハワイやサンフランシスコに住む親戚に呼びかけ、コロナ禍が一息つくのを待って、やっと墓参りが実現したという。

 一行は高知滞在中に牧野植物園に行ったり、紙すき体験をしたりと観光も楽しんだ。旅を通じて「自分は高知人なんだと思えた」と言ったメンバーもいた。「また来たい」というイヤリングさんたちと再会を約束して別れた。

 墓参りを通じて、家族の絆を確かめると共に、現地の文化に触れ、自分たちのルーツを知る。これも一つの「観光」のスタイルではないだろうか。(通訳ガイド・細川治子)

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