<独自>上場企業の希望退職募集、昨年は38社 前年比半減 コロナ前と同水準に

令和4年に希望退職を募集した上場企業が38社と、3年の84社に比べ半分以下に減ったことが25日、分かった。調査した東京商工リサーチが27日に発表する。募集企業数は新型コロナウイルス禍の影響で高止まりしていたが、3年ぶりに50社を割り込み、コロナ前の令和元年と同水準に戻った。

東京商工リサーチによると、希望退職(早期退職を含む)の募集企業数は平成30年が12年以降で最も少ない12社で、令和元年は35社だった。その後、新型コロナの感染が拡大した2年は93社に跳ね上がり、3年も84社と高止まりの様相を呈していた。

だが新型コロナの感染拡大が始まってから2年がたち、業績低迷企業による募集が一巡。行動制限などに伴うコロナ禍の打撃が大きかった業種や企業の募集が大幅に減り、昨年の実施数を押し下げた。

特に「外食」が3年の4社からゼロに減少。3年に11社で最も多かった「アパレル・繊維」も4社と大幅に減った。一方、1社増えて5社となった「機械」が業種別で最も多く、製造業が多かったコロナ前の傾向に回帰した。

3年連続で1万人を超えていた募集人員(非公表の企業は応募人数)は、4年が5780人。3年の1万5892人からは約1万人の大幅減となった。募集企業そのものが減少したことに加えて、1千人以上の大規模募集に踏み切った企業が3年の5社に対し、4年は3031人が応募した富士通のみにとどまった影響も大きい。

希望退職を募った企業が減った背景には、コロナ禍で停滞していた経済活動の回復がある。だが、今年は新型コロナ以外の要因で募集企業が再び増加する可能性が高い。急激な物価上昇やウクライナ危機などで先行きの不透明感が強まり、世界景気の後退も予想される中、希望退職の「乱発リスク」は依然として解消されていない。

昨年は蔓延(まんえん)防止等重点措置の解除や全国旅行支援の開始、入国規制の大幅緩和などが実行に移され、コロナ禍で打撃を受けた企業の業績が回復。今年についても足元の感染者数は依然として多いものの、新型コロナの法律上の位置づけが季節性インフルエンザと同じ「5類」に移されれば影響はさらに弱まりそうだ。

もっとも、製薬業界などでは将来の環境変化を見越し、利益が出ているうちに人員配置を見直す「黒字リストラ」がコロナ禍前から行われてきた。そうした傾向はコロナ禍の下でも引き継がれており、4年は実施企業のうち半数以上の最終損益が黒字。今年も一定の企業が実施に踏み切るものとみられる。

一方で、希望退職募集は経済環境にも左右されやすい。今年の国内経済は緩やかなプラス成長が見込まれているが、多くの企業は原材料高や値上げに伴う販売減といったリスクに直面する。欧州はエネルギー価格上昇や金融引き締めなどで成長鈍化が予想され、ゼロコロナ政策を解除した中国の景気浮揚も見通せない。米国ではIT大手が大規模な人員削減を相次ぎ表明しており、日本にも影響が及ぶ可能性がある。(井田通人)

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