観光業を襲ったコロナ 「教育旅行」に光を見いだした旅行会社の挑戦

久保田一道
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 日光や京都、東京の定番の観光地への社員旅行や修学旅行を請け負う――。従来のこうした営業方針を見直し、売り上げを伸ばす旅行会社がある。観光業界に逆風が吹く中で、光明を見いだしたのは足元にある茨城の魅力を子どもたちに伝える「教育旅行」だった。

 「きっと、人の移動はなくなる」。まだ日本国内で新型コロナウイルスの患者が確認されたばかりだった2020年1月。スタッフ10人ほどの旅行会社「アーストラベル水戸」(水戸市)の社員だった尾崎精彦(きよひこ)さん(45)は、ニュースに触れて自身の業界の先行きを案じていた。

 当時の会社の売り上げは、社員旅行などの法人関連、修学旅行などの学校関連、地元の観光地のプロモーションなど行政からの発注が、おおむね3分の1ずつを占めていた。「大勢で行く会社の旅行はなくなるだろう。感染対策をうたう自治体も、大々的な宣伝はできなくなるのではないか」。予想通り、ツアーのキャンセルが相次いだ。

 会社は、近場をめぐる「マイクロツーリズム」の需要の発掘に注力し、対象も学校関連にしぼることを決めた。

 ただ、これまで学校から請け負ったのは、日光や京都、東京などの人気の観光地への修学旅行が多かった。しかも、感染拡大で、多くの学校で行事が中止になっていた。売り上げは大きく落ち込んだ。

 そこで、重点を置いたのが「体験型」の学習需要の掘り起こしだ。探求型の学習を重視する教育現場のニーズを意識した。

 茨城には全国的に有名な観光地こそ少ないものの、農漁業を中心とした生産現場が豊富で、最先端の科学技術の研究者も多い。役所の紹介や知人のつてを頼りに構想を説くうち、協力してくれる人が徐々に広がった。県内外の学校に、新たなツアーを提案して回った。

 21年に入ると、地元の学校の宿泊学習などの仕事が増えてきた。

 つくば市では、先端技術を取り入れた農業を紹介することに力を入れる。農産物の遺伝子研究の現状を学んだり、最新鋭の植物工場を見学したりする。人工衛星の画像やドローンを農業に生かそうと挑戦する人の説明を聞く機会もあった。

 ラムサール条約に登録されている涸沼(ひぬま)では、いかだに乗りながら湖の漁を学ぶ。五百円玉ほどの大きさのシジミに驚き、その場で作ったみそ汁をおかわりする生徒もいる。

 評判は教員間の口コミで広がり、最近は東京都内の私立校からの引き合いもある。今年の売り上げは、10月の段階でコロナ禍前の19年を上回った。

 20年末に社長に就任した尾崎さんにとって、コロナ禍は旅行会社の存在意義を見つめ直す大きなきっかけになったという。これまでは顧客の依頼に沿ってツアーを手配するのが主だったが、今は「子どもたちに選択肢を提示したい」と考えるようになった。

 人口減少気候変動に直面する世代だからこそ、食料を支える生産者の仕事や、先駆的な技術を応用して社会の課題と向き合う人の熱意に触れてほしいと願う。「茨城は広い。深い体験ができる現場はまだまだあるはずだ」。県内全域に学びの舞台を広げていくのが今後の課題だという。(久保田一道)

     ◇

アーストラベル水戸が自社サイトの「教育旅行」で紹介した主な事例

霞ケ浦で17キロのサイクリング

河内町でチョウザメ・トラフグの養殖見学

・那珂川でラフティング

・つくば市の森林総合研究所で「木の橋」作り

石岡市の朝日里山学校で縄ない体験

・石岡市の木内酒造八郷蒸溜所でウイスキー造り見学

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