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新型コロナウイルス禍で苦境に立たされた大型クルーズ船の運航が、回復の兆しを見せている。感染対策の徹底や新たなサービスの導入で需要を取り戻しつつあり、観光関係者らは、コロナ禍で落ち込んだ経済の活性化に向けて期待を示している。(姫野陽平)
■「安心が大切」
「待ちに待った博多港再開の一番船だ」
今月4日、福岡市博多区の博多港岸壁で開かれたクルーズ船「にっぽん丸」(全長167メートル)の出港式典で、日本旅行業協会の篠崎和敏・九州支部長が明るい表情であいさつした。
博多港にクルーズ船が入るのは、新型コロナの感染拡大が本格化した2020年2月以来、2年9か月ぶり。3日に入港したにっぽん丸は満員の約350人を乗せて4日夕に出港し、鹿児島県の屋久島や奄美大島を4日間かけて巡った。
運航した商船三井客船(東京)は乗客に対してPCR検査を徹底し、毎朝の検温結果や食事の座席を記録してもらうなどの感染対策を導入した。同社は「お客さまにも寄港地の方々にも安心していただくことが大切だ」と説明する。
コロナ禍を踏まえたサービスを展開するのは、「飛鳥2」(全長241メートル)を運航する郵船クルーズ(横浜市)だ。船内でのショーなど人気の集客イベントが制限される中、客室で楽しめる内容を拡充。「ハイティー」と呼ばれる英国式の食事を客室で提供したり、室内で鑑賞できる動画サービスを増やしたりした。
担当者は「密を避けたいというニーズは強く、コロナ禍で変化した船内での過ごし方に対応する必要がある」と話す。
■活況が一変
豊富な観光資源を持つ九州・沖縄にはコロナ前、国内外のクルーズ船が次々と寄港していた。国土交通省によると、博多港は15年に寄港回数が259回で国内トップとなり、16年には最多の328回を記録した。19年には那覇港(260回)が入れ替わってトップに立ち、長崎港や鹿児島港なども上位に入り続けた。
活況が一変したのは、20年2月に「ダイヤモンド・プリンセス」で発生した集団感染だった。以降は運航自粛などで全国的に寄港が激減。21年は、1位のベラビスタマリーナ(広島県)でも82回にとどまり、九州では北九州港が4回、別府港が3回などだった。
ただ、最大で数千人が乗るクルーズ船の寄港は一定の経済効果が見込めるため、港を管理する自治体は運航会社側に感染対策の強化を求めながら、徐々に受け入れを本格化。長崎港には昨年11月、感染拡大後で初めてのクルーズ船寄港となる「飛鳥2」が入り、下関港でも今年5月、「ぱしふぃっくびいなす」(全長183メートル)が泊まった。
追い風も吹いている。斉藤国土交通相は今月15日の記者会見で、国際クルーズ船の受け入れを再開すると表明した。来春から順次、外国クルーズ会社の船が国内各港に入る見通しだ。
受け入れ側の期待は高まっている。コロナ前に国から国際クルーズ拠点に指定された八代港(熊本県八代市)では、熊本県などが20年3月、約185億円かけて受け入れ施設「くまモンポート八代」を整備していた。県観光振興課の担当者は「再開は非常にうれしい。経済効果も大きく、誘致活動を本格化させたい」と声を弾ませる。
■コロナ禍で撤退も
一方、コロナ禍の長期化で、運航会社の経営体力はむしばまれている。「ぱしふぃっくびいなす」の日本クルーズ客船(大阪市)は今月1日、クルーズ船事業から来年1月で撤退すると発表した。利用者がコロナ前の水準に戻らず、事業の継続は難しいと判断した。
日本クルーズ&フェリー学会の会長を務める赤井伸郎・大阪大教授は「国内ではまだ『クルーズ船は怖い』というイメージが残っている。国や自治体、運航会社は感染対策や経済効果について地元に丁寧に説明し、理解を得て受け入れ準備をしっかり進めることが大切だ」と指摘している。
フェリーや高速船も「参入」
観光クルーズの需要を取り込む動きは、フェリー業界などでも進んでいる。
フェリーさんふらわあ(大分市)は来年1月に大阪―別府に就航させる新造船で、最上階(8階)にバルコニーなどが付いた「クルーズ船並みのスイートフロア」を設置する。3世代での利用を想定した部屋も設ける。
同社はもともと、別府湾や大阪湾でフェリーを活用した「カジュアルクルーズ」を展開しており、担当者は「コロナ禍で国内旅行のニーズが高まっている。新たな客層の開拓を目指したい」と話す。
コロナ禍で博多―韓国・釜山航路を運休していたJR九州高速船(福岡市)は昨春から、同航路に導入予定だった新型高速船「クイーンビートル」を九州近海で遊覧ツアーなどに活用。今年4~10月は約7000人が利用した。