金持ちインバウンドに不人気の日本 観光復活への3つのポイント

インバウンド(訪日外国人観光客)の富裕旅行に対する観光業界の注目が高まっている。富裕旅行者の消費による経済効果は一般層の10倍と高い上、インバウンドの「量から質」への転換に役立ち、多すぎるインバウンドが住民の生活環境を乱した「オーバーツーリズム」を改善するとの期待があるためだ。一方、関心事や体験に糸目をつけない若年富裕層を呼び込む受け皿が足りないとの指摘もあり、自然や文化体験、アクティビティー(活動)を組み合わせた「アドベンチャートラベル」などがカギを握るとみられている。

不足する高級ホテル

新型コロナウイルス禍で経済格差が広がり、世界の富裕層人口は拡大している。100万ドル(約1億5千万円)以上の保有資産がある層は、2026年に21年比で5割以上の増加になると予測する調査もある。欧米諸国の観光業界などでは、「コロナ禍による経済的なダメージの少なかった富裕層の旅行市場がいち早く回復している」という、一致した声がある。

日本政府観光局(JNTO)によると、令和元年、欧米豪5カ国と中国から訪日した富裕旅行者(1回の旅行において、旅先で1人当たり100万円以上を消費する旅行者)の数は訪日客全体のわずか1%。しかし消費額は訪日客全体の11・5%に上り、経済的な影響力の強さがうかがえた。

ただ、世界の富裕旅行者の間での日本の人気は低く、米国からの訪問先順位は13位、ドイツではさらに低い23位に甘んじている。

インバウンドによる国内での消費額は、インバウンドが3千万人を超えた令和元年には4兆8千億円に達した。1人当たりの旅行支出は平成27年の17万6167円をピークに減少し、令和元年は15万8531円まで減っている。政府は「2年に8兆円」の目標を掲げたが、コロナ禍で当然達成できず、改めて「7年をめどに5兆円超」の目標を掲げた。達成には消費単価の上積みが欠かせないが、単価を上げる高級ホテルの不足も課題となりそうだ。

日本政策投資銀行は6月、関西2府4県における高級ホテルの需給推計を発表した。これによると、8年時点で新型コロナ禍前の水準にインバウンドが戻るなどした場合、関西では4585室の需要に対して供給は3273室と、既に公表済みの開業計画を織り込んだとしても1300室分以上の高級ホテルが不足する。

地方への呼び込み強化を

この現状を逆に商機とみているのが、進出を加速する外資ホテルだ。

米ホテル大手、マリオット・インターナショナル日本・グアム地区担当代表のカール・ハドソン氏は「日本には高級ホテルが不十分であり、増やす余地は大きい」と強調。来年4月、東京駅前に「ブルガリ ホテル 東京」(東京都中央区、全98室)を日本で初めて出す。関西では森トラストと組み、奈良公園西端で「紫翠 ラグジュアリーコレクションホテル 奈良」(奈良市登大路町、全43室)を来夏に開業するなど、郊外でも意欲的に展開を進めている。

一方、関西では米ヒルトンもJR大阪駅北側の再開発地区(うめきた2期エリア)で最上級の「ウォルドーフ・アストリア大阪」(大阪市北区、全252室)を7年度上期に出すことなどが決まっている。

ヒルトン日本・韓国・ミクロネシア地区代表のティモシー・ソーパー氏は「皆が行きたがる京都や東京、大阪以外にも、日本には素晴らしい地方の魅力がある。オーバーツーリズムを解決するために日本がやるべきことは、地方への呼び込みを強化することだ」と指摘した。

アドベンチャートラベル

インバウンドの急増で大きな課題を残したオーバーツーリズムだが、成田国際空港から入国し、東京や京都、大阪を順に観光して関西国際空港から帰る「ゴールデンルート」と呼ばれる訪日の人気エリアで主に生じた。コロナ禍前、インバウンドの訪問者数は上位10都道府県が全体の約8割を占めるほど集中していた。同じ轍(てつ)を踏まないためには、地方への分散を図ることが重要だ。

地方へインバウンドの富裕層を呼び込む策として、観光庁は自然や文化体験、アクティビティーを組み合わせた「アドベンチャートラベル」の強化を重視している。世界で75兆円に上る巨大市場だ。

「アドベンチャートラベルを楽しむ層がいま最も訪問したいのが日本」(担当者)とみて、11月1日に兵庫県豊岡市で開業したばかりの「フェアフィールド・バイ・マリオット・兵庫神鍋高原」も、富裕層のニーズに応えようとアドベンチャートラベルを提供。地元の協力企業と組み、スキーや星空観察、熱気球体験といった、土地ならではの体験を楽しめるという。

不動産サービス大手のCBRE(東京)の五十嵐芳生氏は「自然体験のアクティビティーなら米国や豪州にもあるため、日本ならではの文化体験の視点が欠かせず、食や温泉もキーワードになる」と指摘する。豪華で快適な滞在を好む中高年の富裕層と異なり、ミレニアル世代などの若い富裕層は、自分の関心事や本物の体験に価値を見いだす傾向があるため、海外ではアドベンチャートラベルを楽しむ人が多い。魅力的な体験商品をつくったり、不足しがちなガイドなど「ホスピタリティー人材」を育てたりすることがうまくいくかも課題となりそうだ。(田村慶子)

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