外国人観光客は戻ってくるか…コロナ禍で仕事失った「通訳ガイド」 水際対策緩和への思いを聞いた

2022年10月24日 06時00分
 政府が新型コロナウイルスの水際対策を大幅に緩和し、東京の観光名所にも外国人観光客の姿が目立ち始めた。そんな光景に期待を膨らませる人たちがいる。訪日客の通訳と旅行案内を同時に担う「全国通訳案内士(通訳ガイド)」だ。外国人観光客は約2年半前にほぼ途絶え、入国制限はこれまで少しずつ緩和されてきたが、この間、事実上の開店休業状態が続いた。今度こそ仕事を全開させたいー。その思いを聞いた。(デジタル編集部・岩田仲弘)

 全国通訳案内士 日本各地で訪日外国人を外国語を用いて有料で観光案内できる国家資格。外国語の種類は、英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、韓国語とタイ語の10言語。日本政府観光局によると、2022年4月1日現在の全国登録者数は約2万6700人。コロナ禍に伴い、資格取得者も減少。21年度の受験者は3834人で、コロナ禍前の19年度から約5割減った。合格者は347人で合格率は9.1%だった。

◆「仕事1日もなかった」が7割以上

自らのスケジュールを示しながら、通訳ガイドの厳しい状況について説明する岡健さん=都内で

 「2020年3月から今年5月まで、ガイドの仕事をしたのは、昨年夏の東京五輪期間中、選手団のサポートで来日した欧州のスポーツ会社の人たちを案内した3日間のみ。それ以外は仕事ゼロで収入がなかった」。通訳案内士の岡たけしさんが、19年以降のスケジュール表を示しながら説明してくれた。特に昨年は、キャンセルの項目ばかりが目立つ。
 18年秋に大手総合商社を早期退職し、翌年に個人事業主として開業。自ら外国人向けのツアー企画や集客もこなす。昨年末には旅行会社を立ち上げ、ツアーの申し込みがあった場合は、他の通訳ガイドに仕事を紹介できるようにした。
 「最近資格を取った人たちは、大手旅行会社などとのつながりがまだない。コロナ禍で出鼻をくじかれて、2年間、何もできない状況なので、少しでも仕事が回っていくようにしたいと思って会社をつくった」という。
 事業協同組合「全日本通訳案内士連盟(JFG)」が今年9月、約1000人の組合員にアンケートしたところ、今年1〜8月に訪日客相手の通訳ガイドの仕事が「一日もなかった」と答えたのは、回答者508人中372人と7割以上に上った。
 政府は6月10日に条件付きで外国人観光客の受け入れを再開したが、その後しばらく仕事がほとんど復活しなかったことを示している。
 仕事をしていたと答えた136人の中でも、9割以上の127人が「20日以下」と答え、「職業として成り立っていない」(JFG)と懸念を示した。
 岡さんも「実際に予約が入り始めたのは7月から」という。
 政府は9月からは1日の入国者数上限を5万人に引き上げた。日本政府観光局が10月19日に発表した9月の訪日外国人数(推計値)は20万6500人となり、3カ月連続で増加。政府はその効果が現れたとみている。
 今月11日には1日の入国者数上限が撤廃され、ビザなし渡航も再開。20日に一時1ドル=150円台を突破した大幅な円安で訪日旅行の割安感も高まっているのも追い風だ。

 水際対策の緩和 政府は6月、国内の旅行業者や旅行サービス手配業者が受入責任者となり、全行程に添乗員の同行を伴うことを条件に観光客の受け入れを再開。9月には添乗員同行を伴わないツアーの受け入れを認め、1日の入国者数上限を2万人から5万人に引き上げた。10月11日には、この上限も撤廃するとともに、観光客が自ら宿泊施設や航空券などを予約できる個人旅行を解禁。米国や韓国、台湾など68カ国・地域からの短期滞在者(最長90日)に対するビザなし渡航も再開した。

◆本格的な需要回復は来春から

 ただ「V字回復」にはまだ時間がかかりそうだ。9月の訪日外国人数もコロナ禍前の2019年9月(約227万人)に比べると9割減で、まだまだ水準は低い。
 岡さんによると、「外国人は旅行先を遅くても半年前に決める。1年前に決める人もたくさんいる。今年の秋に日本には行けそうにないと思った人は、すでに旅行先を他の国に変えている」からだ。
 JFGの松本美江よしえ理事長も「一般的な訪日観光は11月末から3月上旬までオフシーズンになる。事前募集と予約が必要な団体ツアーの新たな予約が入るのは来春以降ではないか」と予測する。
 さらに、コロナの新規感染者数に下げ止まり感が出てきたのも気になるところだ。医療現場や専門家からは流行「第8波」の到来を懸念する声も上がってきた。

仕事再開への期待と不安を語る高木明恵さん=都内で

 2009年から通訳ガイドとして働く高木明恵あきえさんは、マスク着用を巡るトラブルを懸念する。「外国人の中には『私たちの国では、ほとんどマスクしていないよ』と言われることもあるが、マスクを着用しないことで日本人が不安になったり、避けてしまうのは怖い。ガイドラインがあるので、お客さまと気まずくならないようにやっていきたい」と話す。
 岡さんや松本さん、高木さんは今、今後の仕事のための下見などに余念がない。松本さんは和歌山県の高野山、三重県の伊勢神宮などを下見した。外国人観光客の中には「神道と仏教の成り立ちや、密教と仏教がどう違うのか、詳しく知りたいと希望する人もいる」(松本さん)からだ。
 急激な円安に伴い、訪日客による電化製品やブランド品の「爆買い」が注目されがちだが、松本さんは「通訳ガイドを雇ってくれる外国人は買い物情報が目的ではない。文化伝統を深く知りたいためにネットだけでなく、地元で情報を持っている人たちを頼ってくる」と強調。「例えば、日本の伝統工芸品を購入したい人たちが、(円安メリットで)より高い品質のものを購入してくれるようになれば、伝統工芸に携わっている人たちの支援にもなるので紹介していく。長い目で、日本のイメージを高めていきたい」と意欲を語った。

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