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不安消えぬニセコ、入国規制緩和も人手不足の懸念ー冬支度は突貫工事

  • 先行きの不透明感から多くの社員が観光業界に見切りをつけて退職
  • 緩和で今後 1 年間のインバウンド消費は約2兆5000億円との試算も

パウダースノーを求めて世界各地から観光客が集まる北海道ニセコ町は、新型コロナウイルスの感染拡大による訪問客数の急減で過去2シーズンを棒に振った。政府の水際対策緩和方針と円安により長いトンネルを抜け出そうとしているが、人手不足という新たな課題に直面している。

  コロナの水際対策を巡り、岸田文雄首相は22日、1日当たり5万人としている入国者数の上限を10月11日に撤廃する意向を表明。個人旅行とビザなし渡航も解禁する。コロナ前は米国など68カ国・地域からの短期滞在(最長90日)についてビザが免除されていたが、入国規制で現在は全ての外国人にビザ取得が求められている。

  北海道の玄関口・新千歳空港から車で2時間ほどの場所に位置するホテル、ワン・ニセコ・リゾート・タワーズの横井昌宏総支配人は、政府の対策の行方が最近まで不透明だった今年は、多くの外国人観光客を受け入れる準備が全くできておらず、「人材不足は深刻」だと明かす。外国人の受け入れが制限されて以降、在籍していた外国人の正社員の多くが先の見えない観光業界に見切りをつけ退職してしまったためだ。

  通常であればワーキング・ホリデーの査証(ビザ)を持つスタッフの採用を5月ごろに開始する。今年は時間的な猶予がなくこうした人材を採用できなかったため、英語のできる日本人の派遣社員を準備、育成して代替せざるを得ず「ある意味突貫工事だ」と窮状を訴えた。同社のウェブサイトにはフロントや清掃からレストランの調理まで多くの求人募集が並んでいる。

  SMBC日興証券のエコノミスト、関口直人氏らは13日付のリポートで、コロナ禍以前は77%の訪日客が個別手配で来日していたため、個人旅行の解禁は特にインバウンドの回復につながると指摘。また、2019年の全訪日客数の6割超は観光ビザ免除対象国からの入国だったため、ビザ免除措置の再開も追い風になるとみる。

今後1年で2.5兆円の消費を期待

  さらに関口氏らは、インバウンド消費の大きな割合を占めていた中国からの訪日は当面期待しづらいが、各国のワクチン接種状況や円安による購買力の高まりを踏まえると、今回の緩和で向こう 1 年間のインバウンド消費は2兆5000億円程度と、約4兆8000億円だった19年の水準の半分程度まで回復する可能性があるとの見通した。

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パークハイアットニセコHANAZONOの客室
Source: Source: Park Hyatt Niseko

  ニセコ町でシーフードレストラン「エゾ」を13年間ほど経営していたジェームス・ギャラガー氏は昨年、入国規制が長く続いたことから売り上げは感染拡大前の1割に落ち込み、レストラン事業の継続を諦めた。従業員が離れたいまゼロから店を建て直すのは困難なため、今年のスキーシーズンに向けては、少ないスタッフでの運営が可能なテークアウト専門事業を始める準備を進めているという。

ニセコ町の外国人宿泊客数の推移

ニセコ町

  外資系高級ホテルやコンドミニアム(長期滞在用宿泊施設)など外国人観光客向けの施設の建設が進み、ニセコ町の海外からの訪問客数は17年度には過去最高の約22万人と10年前と比べ5倍の水準に達したが、21年度には一気に77人に落ち込んだ。

  ニセコ町の片山健也町長は、適正な水準の宿泊料金を取れるようになったことで従業員の給料は上昇し町の税収も改善したところにコロナ禍が襲い、「宿泊はゼロ、飲食店はパタッと止まり閉める」状態となったと振り返った。

  ニセコリゾート観光協会の代表取締役で、アウトドアの会社を運営する下田伸一氏によると、地元の観光業界は入国制限が緩和されても「本当に来るのだろうか」と疑心暗鬼だという。なんとか人材を確保しても実際に観光客が来なかったらどうするのかとの懸念が広がっていると話した。

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