「デジタル化に遅れ」観光白書


 新型コロナウイルスの感染拡大でテレワークやオンライン会議が普及し、非接触型サービスの導入が進むなど、デジタル技術を活用する機運が高まっている。観光産業では、デジタル技術を活用し、観光サービスを変革するDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進することで、旅行者の消費拡大や再来訪を促進し、地域の収益を最大化できると期待されている。2022年度版「観光白書」における記述から、観光DXの課題や取り組みの方向性を紹介する。

 

1.観光産業におけるデジタル化の状況の分析

(1)IT・デジタル化とDX

 DXは、スウェーデンのウメオ大学教授、エリック・ストルターマン氏が2004年に提唱した「進化し続けるテクノロジーが生活をより良くしていく」という概念に基づく。デジタル技術やデータの活用を通じて、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、組織の文化・風土、業務を変革することで競争上の優位性を確立することを指す。

 DXに類似する取り組みに「IT化」や「デジタル化」がある。DXとIT・デジタル化には明確な区分けはないとされるが、両者の間には実施目的に違いがあると考えられている。IT・デジタル化は、ITツールの導入やデジタル技術、データの活用を通じて既存業務の効率化や生産性の向上を図ることを主な目的とする。一方、DXはIT・デジタル技術を活用して、組織やビジネスモデルなどの既存の仕組みを変革していくことが大きな目的となる。

 観光産業におけるDXの推進に向けては、IT・デジタル化を通じて既存業務の効率化や生産性向上を図るとともに、ツール導入の段階にとどまらず、組織やビジネスモデルの変革など、DXに向けて新たなビジネスの仕組みや価値の創造へと取り組みを加速化することが重要となる。

(2)デジタル化の遅れ

 総務省「令和3年情報通信白書」によると、業種別のDXへの取り組み状況は、「実施している」と回答した割合が、「情報通信業(通信業)」で51.0%、「金融業、保険業」で44.7%と高い。一方、観光関連産業では「宿泊業、飲食サービス業」が16.4%、「運輸業、郵便業」が16.9%で他の業種に比べて遅れている。

(3)事業者規模別に見たデジタル化されている業務の割合

 旅行業、小売業、宿泊業のいずれにおいても、従業員数が多い企業ほどIT・デジタル化されている業務の割合が高くなる傾向にあり、大規模な企業ほど、IT・デジタル化が進んでいると考えられる。

 観光庁の調査(21年5月)によると、旅行業、小売業、宿泊業ではIT・デジタル化を進めている企業が多いものの、DXに向けた取り組みは、最も実施の割合が高い「IT・デジタルツールでの他企業、団体との連携」でも約3割にとどまっている。特に、「IT・デジタルのリテラシー、スキルの習得・向上策の実施」への取り組みは低い状況にあり、人材育成が課題となっている。

(4)DXに向けた課題

 日本企業がDXを進める際の課題には、「人材不足」「費用対効果が不明」「資金不足」「既存システムとの関係性」「ICTなど技術的な知識不足」などが挙がっている。

 観光庁の調査では、宿泊業の就労者にIT・デジタル化が進まない理由を聞くと、「必要性が認識されていない」44.7%▽「知識、スキルのある人材が不足している」44.3%▽「費用が不足している」29.5%―などとなっている。

 

2.具体的な課題と取り組みの方向性

 観光分野では、オンラインによる旅行・宿泊予約が定着し、スマートフォンの普及で旅行者側のデジタル化がさらに進展する中、オンライン対応を旅行会社やOTAに依存してきた宿泊施設などの地域の受け入れ側にデジタル化の遅れが見られる。

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