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航空会社が地方の海産物や農産品を直送する事業に相次いで参入している。北海道や九州などで水揚げ、収穫されたものを航空機で都市部に運ぶため、鉄道やトラックに比べて輸送時間が短く、鮮度が武器になっている。コロナ禍に伴う旅客減で業績悪化に苦しむ中、新たな収益源に育てられるかが注目される。
「鶴丸」のマーク
日本航空は6月下旬から、北海道で水揚げされたホタテを月最大2トン、旅客機に載せて東京都内のスーパーに届けている。午前中に現地でむき身に加工すると、翌朝には店頭に並べられる。冷凍せずに済むため、歯ごたえの良さも維持できる。
仕入れている京王ストア(東京)の担当者は「(空輸代を考慮すると)価格は1割ほど高くなるが、質と鮮度で十分に勝負できる」と話す。包装には日航のロゴマーク「鶴丸」と「空からお届け」とのメッセージが書かれたシールを貼っており、人気は上々という。
日航はホタテ以外にも運ぶ品目を増やしたい考えで、赤坂祐二社長は「地方の生鮮品は大手の運送会社も運び切れていない。いずれ海外にも出していきたい」と意気込む。
空輸の産直会社を設立
ANAホールディングス(HD)は1月、空輸で産地から直送する事業会社「日本産直空輸」を設立した。「最速物流による鮮度」を売りに、魚介類や野菜、生花といった地方産品を首都圏に運んでいる。
このサービスを活用する有機野菜生産「ekubofarm(エクボファーム)」(鹿児島)の久保竜也社長は「空輸だからこそ、鹿児島から質と鮮度の良いものを東京に出せる。地元だけの販売では品物がかぶって埋もれてしまうが、東京なら差別化できる」と話す。
ソラシドエア(宮崎市)は、宮崎市内で生鮮品などを自社の車で集荷し、宮崎発羽田行きの便に載せている。羽田空港から配送先にも社員が車を運転して届けており、「空陸一貫」の事業だ。
空港からの運び手が課題
航空業界はコロナ禍で乗客が激減し、日航やANAHDの2022年3月期連結決算は最終利益が2期連続の赤字となった。産地直送事業を手がける背景には、地方産品の魅力を知ってもらうことは観光客増加につながり、いずれ本業に好影響を及ぼすとの期待もある。
流通経済研究所の吉間めぐみ主任研究員は「『産直』の輸送需要は高く、今後も伸びるだろう。ただ、輸送量の増加に伴って、空港から配送先までの運び手をどう確保するかが課題となる」と指摘している。