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観光産業が意識すべきBCP対策-医学博士 古本尚樹氏寄稿

  • 2021年2月19日

緊急事態宣言やGO TO停止
北海道の現状と影響をふまえ

有効な例

 緊急時など、状況に合わせて商品やサービス提供方法を柔軟に変えることは重要である。たとえば今回のコロナ禍における飲食店の場合、外出自粛が続く現状に合わせて、SNSに追加された料理注文機能を活用することなどが挙げられる。利用者の趣向や行動の変化を予見し、そのニーズの変化に対応した商品やサービスをその都度展開すること、時勢を先読みすることが重要となる。ワークマンや西松屋はその最たる企業である。

BCPの考え方

 ホテル業を例にした場合、BCP策定の際の基本概念としては下記が挙げられる。「優先して継続・復旧を目指すことを確定」「緊急時目標復旧時間を定める」「緊急時に提供できるサービスのレベルを協議して共有する」「代替となる事業拠点、生産設備、仕入品などを定量化」「全ての従業員と事業継続についてコミュニケーションを図る」(中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」)。

 その上で「事業を理解する」「BCPの準備、事前対策を行う」「BCP策定」「意識の高揚とその意識定着」「BCPの訓練、更新を行う」

 

 また、緊急事態時の宿泊客などの安全を確立し、宿泊施設として最低限必要な機能を維持する。従業員に対しては、経営を継続して収益を確保し従業員の雇用を確保する。地域に対しては、観光客の減少に寄与するとともに速やかな観光産業の復興に協力することが重要である。加えて、「企業同士の助けあい」、「緊急時であっても商取引の倫理観を守る」、「地域を重視」、「公的支援制度を利用」という4点の要点も重視できれば更に良い。

 

 日常から正しくBCPサイクルを運用するには、トップの意識と士気が必要だ。特に取引先などのステークホルダーや商工会議所などの「外部組織」との連携は、きちんと役割分担して活動しなければ曖昧になる。周辺の観光などと密接に関わるホテル経営は、他の産業とは異なり地域や周辺の産業を大事にしないと、早期の営業再開や休業の回避は困難だ。BCP運用の対象である施設の職種また常勤・非常勤を問わず「全従業員」とともに、外部のステークホルダーともしっかりとBCPの内容や意義を共有する。緊急時のバックアップ体制(代替要員を含め)も欠かせない。そのために、従業員は働く宿泊施設のBCPの策定有無や緊急事態での対応について理解する必要がある。

 何よりも今回のコロナ禍で観光や旅行業等業界全体でBCPの進展につながればと思う。本業種は他業種に比べ、BCP策定が遅れている。コロナ対策も含め、未曽有の大災害に備えるためにも、著者自身も微力ながら原稿を介して協力したい。

古本尚樹
防災・危機管理アドバイザー(博士[医学])新型コロナウイルス対策(特に住民・自治体・企業対策、また企業の従業員健康や雇用への対策、企業業務継続計画[BCP]、経済との関係等)、企業危機管理、災害医療、自然災害における防災対策・被災者の健康問題等。また、企業等の人材育成にも携わっている(銀行や自治体など)。


主な学歴
・北海道大学大学院医学研究科社会医学専攻地域家庭医療学講座プライマリ・ケア医学分野(医療システム学)博士課程修了
・東京大学大学院医学系研究科外科学専攻救急医学分野医学博士課程中退
主な職歴
・熊本大学大学院自然科学研究科附属減災型社会システム実践研究教育センター特任准教授(2016~2017)
・公益財団法人 地震予知総合研究振興会 東濃地震科学研究所 主任研究員(2018~2020)