観光産業が意識すべきBCP対策-医学博士 古本尚樹氏寄稿

  • 2021年2月19日

緊急事態宣言やGO TO停止
北海道の現状と影響をふまえ

BCPとは何か

 BCP(事業継続計画)とは、企業が自然災害、大火災、またコロナ禍などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことです。

 

 緊急事態は突然発生します。有効な手を打つことができなければ、経営基盤が脆弱な企業の場合、廃業に追い込まれるおそれがあります。また、事業を縮小し従業員を解雇しなければならない状況も考えられます。緊急時に倒産や事業縮小を回避するためには、平常時からBCPを周到に準備しておき、緊急時に事業の継続・早期復旧を図ることが重要となります。こうした企業は、顧客の信用を維持し、市場関係者から高い評価を受けることとなり、株主にとって企業価値の維持・向上につながるのです(参考:中小企業庁「中小企業BCP策定運用方針」)。

国内におけるBCP策定企業の状況

 基本的に大企業の内の8割以上が、BCPを作成している。その一方、中小企業、個人事業主では全体の2~3割程度とほとんど進んでいない。加えて、新型コロナ対策のBCPとなると、大企業でも昨年から少しずつ加味する動きは出てきたがかなり少なく、中小企業はほぼ皆無である。そこには経費の問題や、BCP専門家を確保し、定期的に講習や訓練を受ける意識醸成がされていないことが背景にある。

 BCPはコロナや自然災害、ネットワークダウンなどあらゆるリスクに対応し、経営を維持するための助けになるため、構築したほうが企業へのメリットは大きい。しかし、中小企業では、前述したようなリスクがたまにしか発生せず、概ねそれへの投資意識が低い。ひとたび今回のような、大規模で長期間にわたり経営に深刻な影響を及ぼす感染症ならばその損失は莫大である。このリスク対策への投資意識は海外、特に米国では強く、我が国が学ぶべきところは多い。

 北海道の現状を振り返ると、道内における観光産業の脆弱性は、儲けにつながるものに特化しすぎる傾向があった。そこにリスクがあることをほぼ考えておらず、セーフティネットのない、基本的に直近の儲けに傾倒する傾向が強い。特に中小企業や小売店ではその流れになっている。あらゆる事態に備えてBCPを策定し、危機的状況が実際に発生した際に迅速かつ適切な方法で対応することが、事業の早期復旧の鍵になるのは自然災害時でも共通だ。