バス8社と行政が共同運営“広島モデル” 課題解決の行き先は?

バス8社と行政が共同運営“広島モデル” 課題解決の行き先は?
全国的に利用者の減少や運転手不足といった多くの課題を抱えている路線バス。こうした課題は、バス会社単独では解決ができないとして、広島市ではライバル会社8社と行政が連携し解決に取り組もうとしています。官民一体で行うという全国でも珍しいスタイルでもあることから「広島モデル」とも言われるこの取り組み。どういったことを目指しているのか。実証実験の現場に密着しました。
(広島放送局記者 柳生寛吾)

バス会社の厳しい経営環境

なぜ、ライバル関係にあるバス会社が垣根を越え、行政が主導する形で「広島モデル」という構想を打ち立てて連携することになったのか。

背景には、バス会社の強い危機感がありました。
中国地方の中核都市、広島市は人口およそ120万人を抱えていますが、それでも市内に乗り入れている主要なバス会社は利用客の落ち込みに歯止めがかかりません。利用客はピークの平成元年ごろの半分以下にまで落ち込み、いまも新型コロナの感染拡大前の水準まで戻っていません。

さらに、深刻な課題となっているのが運転手不足です。
広島市のまとめによりますと、この5年間でバス運転手は1割減少しています。4月からは運転手の時間外労働の規制が強化される、いわゆる「2024年問題」への対応も求められます。
「大幅な減便をしていて、このままでは路線存続も危ぶまれるような状況になってきています。各社と連携しながら、効率化を図っていきたいです」

重複路線の解消へ“役割分担”

「広島モデル」の実現に向けて、2023年12月から1か月間、初めての実証実験が行われました。ねらいの1つは、バス会社が連携して効率的な運営に取り組みながら、利用客の利便性を高めることです。

初日の朝、私は実証実験の現場を訪ねました。はじめに向かったのは、広島市内中心部から北東に7キロほどの住宅街にある、広島市東区の「温品四丁目」のバス停です。
このバス停を通る路線は、広島市中心部に通う会社員や学生が利用しています。広島バスと広島電鉄の2社が同じ区間を重複して運行していて、利用客が減少傾向にあるにもかかわらず、奪い合いが起きていました。

そこで実証実験では、バス会社ごとに区間を分けて“役割分担”することにしました。
「広島バス」は、郊外にある安佐北区の地域と「温品四丁目」の区間に専念し、重複していた「温品四丁目」と市内中心部に向かう区間は「広島電鉄」が運行します。

これによって「広島バス」が運行する区間は、従来より5往復ほど増やすことができます。

乗り換えが必要に 一方で「効果」も

私が訪れたのは、両社のバスの接続点となるバス停で、この日は利用客がいったんバスを降りて、別の会社のバスに乗り換える姿が見られました。実際に利用した人に話を聞いてみました。
利用者
「路線が増便されるのはありがたいことですが、乗り換える必要もあるので手間がかかると思いました」
「路線によって違うバス会社にもうまく乗り継げるようになったら便利になると思います」
「自社だけではどうにもならないことがかなり増えてきていて、事業者が連携する共存の取り組みが必要不可欠です。会社をまたいだ乗り換えや乗り継ぎも検討して、利便性を高めることによって、バス会社全体が活性化するような取り組みになればいいと思います」
1か月間の実証実験の結果、果たしてどれくらい効果があったのでしょうか。

増便した区間では、1日あたりの利用客数が8.7人から26人と、3倍近く増えました。利用者へのアンケートの結果では、6割以上の人が「便利になった」と回答していて、広島市は「ニーズに応じた効率的な運行が実現できた」と手応えを感じています。

「新規需要の掘り起こし」では課題も

一方、新たな需要の掘り起こしを目指した実証実験では、難しさも浮き彫りになりました。

次に、私が訪れたのは広島市佐伯区の2つの団地がある地域です。
ここではバスではなく、9人乗りの乗用車を使います。小型の車両を使うことでコストをおさえました。
この乗用車は、2つの団地とスーパーなどがある地域のそれぞれおよそ2キロの短い区間を1日3往復から5往復します。

同じ区間には、ほかの地域を経由する路線バスが走っていますが、区間を限定して便数を増やすことで、買い物客の需要の掘り起こしを目指しました。
近くの団地に住む人
「買い物に行く人には便利になると思います。ぜひ続けてほしいです」
しかし実証実験の結果、1日の利用客は10人前後。1便あたり1人か2人程度しか乗っておらず、思ったように増えませんでした。
これまでも広島市では、循環バスを複数の会社で運行したり、特定のエリア内でバス会社を問わず、定額で利用できるパスを発行したりと、会社どうしで一定の連携を進めてきました。

競争から協調へ 独占禁止法の「特例法」施行も後押しに

しかし、経営環境が一段と厳しくなる中で、▽バス会社が収益を上げることと、▽必要なバス路線を維持することの両立が難しくなっています。そこで、さらに一歩、踏み込んだ連携が欠かせないとして、2年前に「広島モデル」の構想が立ち上がりました。広島市が主導して、これまで競争関係にあったバス会社8社が、共通した課題に向き合い、協調する形を目指したのです。

バス会社どうしが運行本数などを協議することは独占禁止法で規制されていましたが、4年前に、経営が苦しい地方の路線バスなどに限って、認可を受ければ「特例」を認める法律が定められました。この特例法が施行されたことも取り組みを後押ししました。

広島市は2月、今回の実証実験の結果を踏まえて、共同運営に向けた基本方針を策定し、4月には市とバス会社8社が新たな組織を立ち上げます。
今後の具体的な取り組みとしては、▽過密になっている市内中心部の路線を整理。▽整理した分は郊外の路線を維持するために振り向けることも検討。さらに▽車両や施設などを共同で利用することや、▽将来的には運転手を会社の垣根を越えて融通することも検討対象となっています。こうした取り組みを2024年度から5年から6年程度かけて順次、実施していきたいとしています。
広島市は「事業者間で連携することで、いまあるリソース(経営資源)をいかに最大限活用するかが、まずは大きな命題で、今回の実証実験が1つの切り口になった。経営の安定化が図れれば、事業者も新たな投資や労働環境の改善にも積極的に取り組むことができる。引き続き実証実験も重ねながら、運営の効率化・最適化の道筋を見いだしたい」と話しています。

「広島モデル」では、単なる路線のすみわけ・再編だけでなく、市内中心部の道路混雑の解消や、観光客の回遊性の向上など、さまざまな分野への波及効果を目指しています。

各社の連携が効果を生み出し、バス事業そのもののあり方を生まれ変わらせることができるのか、そして、持続可能な公共交通を作ることができるのか、注目していきたいと思います。
2023年12月15日 広島県域「お好みワイド」で放送
広島放送局記者
柳生 寛吾
2012年入局
長崎局、政治部を経て去年から広島局
広島市政と原爆取材を担当
バスと路面電車を生活の足として活用中