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インタビュー:アラン代表取締役社長 荒木篤実氏

  • 2010年10月19日
IT関連業から旅行業に参入
消費者目線重視し、年50%増の成長率を維持


 海外の現地オプショナルツアー予約専門サイト「Alan1.net」を運営するアランは、2004年の開設以来、年30%から50%増と高い成長率を維持している。その間、日本人出国者数は弱含みの推移で、2008年は世界的な経済不況、2009年は新型インフルエンザで旅行業界全体が大きく落ちこんだなかでの状況だ。インターネットを利用した旅行情報の収集や、旅行商品を購入する消費者の増加などの追い風はあるが、それでもこの厳しい環境下で同社が成長し続けている秘訣は何か。アラン代表取締役社長の荒木篤実氏に、その秘訣と今後の戦略を聞いた。
                  
                 
−インターネットでのオプショナルツアー販売に着手したきっかけを教えてください

荒木篤実氏(以下、敬称略) もともとはインターネットマーケティングなどIT関連事業を手がけており、その一環で2000年からゴルフ場予約専門サイト「GORA」を運営していた。それを2003年に他社に譲渡した後、今までのノウハウを活用して別の予約サイトを運営しようと思った。色々な候補のなかから、当時日本でまだ誰も運営していなかった、アクティビティ専門の予約サイトの立ち上げを考えた。

 まずはマーケティングからはじめた。実際にゴールドコーストに行き、海外のオプショナルツアー予約サイトをチェックして、日本から閲覧しやすいインターネットでの情報と現地の情報にどれだけ差があるか比較した。結果、現地では100から150のツアーがあったが、予約サイトではあまり数を扱っておらず、日本の旅行会社では5から10ツアー程度の取り扱いだった。

 100ツアーあるならば100ツアーを消費者に見せるべきだし、その際はユーザーがわかりやすいよう、おすすめの20から30のツアーをトップページに出すなど見せ方を工夫する。われわれが目利き役になり、責任をもって紹介すれば支持されるのではと考えた。現在でも実際に弊社スタッフが現地に赴き商品を見てきている。


−世界的な経済不況や新型インフルエンザなどで旅行業界が冷え込んだ時期もありましたが、送客数は前年比50%増と高成長を続けていますね

荒木 弊社の場合、あまり社会や経済情勢といった外的要因の影響を受けていない。もっとも、昨年の新型インフルエンザや今年のアイスランドの火山噴火の時期はやや伸び悩んだ。新型インフルエンザでは、見えない恐怖心が旅行需要を停滞させた。テロ以外にもこうした要因で落ちこむのが旅行業界なのか、と驚きを感じた。アイスランドの噴火では、キャンセル料を自社で負担し、ユーザーに安心して予約してもらえるよう対応した。そういう意味では、きちんとお客様と接することができたよい機会になったと思う。

 今までに一番苦戦した時期は、立ち上げ当初から2、3年間。立ち上げて3ヶ月でハワイ、オーストラリア、バリに進出し、現地会社を買収し子会社化して運営を続けていったが、立ち上がりからすぐに伸びるはずのネットビジネスで、なかなか伸びない。原因を考えたところ、お客様目線で取扱い地域数が少ないからではないかと仮説を立てた。お客様が行きたい世界中の旅行先に対応するため、取り扱い地域も世界中に拡大しようと決意した。社内の反対もあったが、ニューヨークを皮切りに地域数を増加したところ、取扱いも比例して伸びた。

 2008年の送客数は前年比50%増の13万2000人、2009年も50%増の約20万人、2010年は8月時点で40%増で推移しており、最終的には30万人以上での着地を見込んでいる。2011年は45万人から50万人をめざしたい。また、取扱い地域も、現在は54ヶ国128都市だが、これを2011年夏までに75ヶ国200弱の都市まで拡大していきたい。


−ユーザーを取り込むためにどのような対策を実施していますか

荒木 ユーザーのメインはFIT層で、全体の7割を占めている。ユーザーはリピーターが多く、男女比は半々で、30代がメイン。最近はインターネットで旅行情報を調べることが多い20代の伸びが顕著だ。検索エンジン対策(SEO)などアクセス誘導対策をし、インターネットで検索すると最終的にアランのサイトにたどりつくようさまざまな仕掛けをした効果だと考えられる。

 また、適正価格での販売にも努め、商品は現地販売価格と同料金とし、現地通貨で掲載している。パッケージ本体の値段を安く、オプショナルツアーを高値に設定することで利益を得ようと考える旅行会社もある。安売りが悪いわけではないが、こうした利益構造は消費者に不親切だ。弊社の場合、利益はコミッションで得ており、円立てではないので、為替市場に応じて表示価格が変動することはなくお客様にもわかりやすい。もっとも、会員からは日本円表示の要望も出ており、今後は現地通貨表示と円表示の併記も検討していく。

 さらに、SITや、弊社を年4回から5回の頻度で利用するようなハードリピーターにも満足してもらえるような商品も充実させていく。弊社には、行程を自分でプランニングし、電車などの現地交通を自分で手配した上で、時間的にぎりぎりだが参加できるか、といった問い合わせや、ツアーについて弊社でも分からないほど細かい部分まで質問をするような、こだわりが強いユーザーも多い。こういう行程のツアーを取り扱ってほしい、という細かな要望をいただくこともあるほどだ。こうしたユーザーの要望に応え、こだわりが強く、特徴の際立った商品も扱っていきたい。


−他社との提携も積極的に実施されていますが、今後の展望は

荒木 他社との提携は2005年から開始した。弊社と異なる強みをもつ会社と実施しており、これまでエイビーロード、トラベルコちゃん、CHINTAIトラベルサービス、ヤフー・トラベル、近畿日本ツーリスト(KNT)などさまざまな会社と提携してきた。今年はビジネスターゲットの取り込みをねらいMSNと提携したが、空港送迎商品の売り上げが伸びてきており、マーケットの引きを感じている。今後は旅行業に限らず、さまざまな業種の会社と提携し、たとえば40代男性など、弊社があまり強くない顧客層を拡大していきたい。


−今後オプショナルツアー以外に取扱商品を拡大する予定はありますか

荒木 今のところはオプショナルツアー以外に拡大していくつもりはない。HIS VACATIONや日通トラベルペリカンネットなど、オプショナルツアーをオンラインで販売する旅行会社もあるが、弊社では航空券やホテルなどを扱う予定はなく、将来的に向かう方向は旅行会社ではないと考えている。

 5年から10年後の長期的ビジョンとしては、世界中の現地のサービスを世界中のあらゆる人に提供する会社にしたいと考えている。弊社がオプショナルツアーを販売しているのは、消費者の「旅行先、移動先で何かしたい」というニーズが多く存在しているからだ。今後はレストランやタクシーの予約、通訳や翻訳といった現地のあらゆるサービスを取扱い、現地の人を含め誰もがサービスを気軽に利用できるようにし、アクティビティ系予約サイトの第一人者になっていきたい。


−ありがとうございました


取材:本紙 栗本奈央子