旅行業・観光業DX・IT化支援サービス
itt TOKYO2024

インタビュー:クラブメッド副社長兼営業統括本部長の瀬口盛正氏

  • 2009年11月4日
「安心」、「信頼」、「お得感」のブランディング
クラブメッドの価値を伝える先駆者に


 9月にクラブメッドの副社長兼営業統括本部長に就任したばかりの瀬口盛正氏。旅行業界へは異業種からの転職で、これまではオランダの酒類販売合弁会社の日本支社長やメキシコ支社長、広告代理店での営業や新規ビジネス開発などを手がけていた。クラブメッドを「旅行業界の先駆者に」と辣腕をふるう瀬口氏に、就任の抱負とその戦略を聞いた。





−旅行業界は環境の変化が激しく問題点も抱えていますが、なぜ旅行業界を選ばれたのでしょうか。ご就任の抱負と合わせてお聞かせください

瀬口盛正氏(以下、敬称略) 私は、これまで企業のブランディングを担ってきましたが、この不景気下、どの業界でも価格競争が激しい。そのなかで生き残れるのはブランド力のある会社です。ですから、「プレミアム・オールインクルーシブ」「商品力」といった特徴でブランドが確立されている「クラブメッド」はとても興味深い。学生時代など海外生活が長かったのですが、当時からクラブメッドの印象は高かった。旅行業界というより「クラブメッドを選んだ」という感じです。これまでの自分の経験がより強いブランディングの一助になれば、と思いました。

 競争が厳しい旅行業の中で、「プレミアム・オールインクルーシブ」という他の旅行会社にはない強み、ブランドを打ち出したい。しかし「オールインクルーシブ」という言葉自体をご存知ない方が多く、そこを知っていただきクラブメッドに価値を見出していただきたい。そのお得感の認知を高める先駆者になろうと思っています。

 また、日本のお客様は欧米諸国のようなのんびりした旅行ではなく、旅行中にぎっしり予定を組んでしまいがちです。もっとのんびり質の高い休暇を楽しむ「本当のバカンス」、つまり「真のハピネス(Happiness)」を、クラブメッドで体験していただきたいというのが個人的な抱負です。


−日本市場と御社の現状をどのようにお考えですか

瀬口 非常に厳しい状況ですね。他のアジア諸国に比べ、日本は回復のスピードがとりわけ遅いように思います。すでにシンガポール、インドネシア、マレーシア、オーストラリアなどはすごい勢いで回復がはじまっているのに対し、日本はまだリセッション(景気後退)から抜け出していない。とはいえ、当社の売り上げは昨年11月からこれまで約15%減と、良くはありませんがそれほどの落ち込みではなかったといえます。

 新型インフルエンザ騒動がはじまる前の11月から3月までの“貯金”があったのも理由のひとつですが、ダメージは最小限に抑えられたと思っています。9月末ごろからはラストミニッツのブッキングパターンが増えたことをうけ、さまざまな施策をとった結果、9月の終わり頃から回復の兆しも見えてきました。


−施策の内容は

瀬口 このような時勢、消費者の価格志向が強くなっていると分析し、「2人目半額」と「2人目無料」のふたつのキャンペーンを、段階を追って打ち出しました。「2人目無料」は400組限定で期間も限られていましたが、売り出して3日で完売と、反響が非常によかった。値下げをするのではなく、旅行会社にとって売りやすいものを提供したかったわけです。おかげで下がっていたボリュームを回復傾向にすることができました。

 また、新規顧客を開拓するねらいもありました。当社はリピーター率が非常に高いのですが、中長期的な戦略を考えるにあたっては、やはり新規顧客の開拓は必要不可欠。リピーター率の高さは、一度体験すれば魅力が理解されることを意味していますから、まずは体験していただき、リピーター化につなげるという考えです。


−中長期的な市場の見通しと、その中での戦略を教えてください

瀬口 2010年から12年までを見据えて戦略を立てており、来年はまだ不況から完璧に脱却はできないだろうと考えています。11年には回復基調に転じ、12年には成長基調となるのではないでしょうか。ただし、状況が好転するのを待つばかりではありません。当社では5、6年前からバリュー戦略を実施しています。

 当社では毎年、必ずリゾートのハードに対し、数億ユーロ単位での投資をしています。デラックスの数を増やすとか、2歳未満のお子様を預かる「ベビークラブ」の設置、施設の修復などアップグレードをはかるわけです。それにより値崩れせず、定額を提示しても納得していただくことができる施設づくりに取り組んでいます。


−ブランディングを重視されるということですが、日本での戦略をお聞かせください

瀬口 日本では、「オールインクルーシブのクラブメッド」の認知度が40代より上の年齢層には高いのに対し、30代になると低くなり、20代ではほとんど知られていない現状です。まずはその方々に到達する方法を考えていきたい。エイチ・アイ・エス(HIS)さんと展開中の共同企画はこの一環といえます。年代ごとに価値観が違いますから、それにあわせた形でメッセージを的確に伝えることが大切ですが、やはりプレミアム・オールインクルーシブのお値打ち感は伝えていきます。

 もうひとつ、ハードだけでなくソフトも含めて「常に改善していく姿勢」がブランド作りの根幹にあります。日本人のお客様からのフィードバックは非常に厳しいものであり、ひとつのベンチマークとして社内で真摯に受け止めています。つまり、日本人に満足していただけたものはほとんどのマーケットで通用するという認識で、フィードバックをもとに改善に努めています。「認知度」と「改善」、この2点が当社の課題であり、オポチュニティ(機会)なのです。


−今後の目標は

瀬口 ボリュームにはこだわっていません。むしろ利益率のほうが大切で、価値ある売り方をしていきたいと思っています。日本は当社にとって世界で4番目の市場であり、大変重要な位置にあります。そのためにもバリュー戦略を徹底し、先行投資を続けていきます。再び訪れたいと思われる施設づくりをしていくことですね。

 もうひとつ、日本にもサホロとカビラ、2つのビレッジがありますが、今流行りの「安・近・短」ではなく(決してそれが悪いという意味ではないですが)、当社の海外にある80のビレッジをもっと体験していただきたいと思っています。この2つが目下の目標です。

 また、旅行会社に対しては、“なぜクラブメッドなのか”をお伝えしたい。ブランドとはつまり「安心」「信頼」です。クラブメッドを売れば間違いないというブランド作りをめざしており、それは一度体験いただければご理解いただけます。ですから、旅行会社の方々にはまず一度体験していただきたい。そのうえで、その会社の顧客にあった商品を速いスピードで造成していく。ほかのチャネルでは買えないような商品作りをしていきたいと思います。


−ありがとうございました