「関西のUSJ」からアジアのリーダーへ-JATA経営フォーラムから

  • 2015年3月3日

徹底したマーケティングで勝利し
成功モデルを世界に輸出する

   2月18日に開催された「JATA経営フォーラム2015」では、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)を運営するユー・エス・ジェイの執行役員マーケティング本部長を務める森岡毅氏が「ユニバーサル・スタジオ・ジャパンはなぜ攻め続けるのか?」と題した講演をおこなった。USJ は開業年度の2001年度には世界最短で来場者数1000万人を達成し、年間では1102万人を集客したものの、その後数年は低迷。しかし、P&Gでヘアケア商品のマーケティングに携わっていた森岡氏の入社後は、3年間でV字回復に転じている。森岡氏の戦略とUSJの今後について解説した同講演の要旨を紹介する。

成功の陰に予測と逆算がある

 私は2010年にUSJに移籍したが、2009年度の時点でUSJの入場者数は730万人にまで減少していた。しかもUSJは東京ディズニーランド(TDL)に次ぐ、日本で2番目に大きいテーマパークではあるが、そもそも首都圏の経済規模は関西の3倍で、TDLはUSJの数倍の売り上げがある。USJは関西にとどまっていては永遠にTDLには勝てないし、歴史を振り返れば、競争において2番手の存在は大抵滅びる運命にある。生き残り、そしてレジャーとエンターテイメントの世界におけるアジアのリーディング企業となるためには、やはり「攻める」しかない。

 今後、関西を含めて日本全体の人口が減少することを考えれば、集客を関西のみに依存する体質からの脱却は必至となる。また、これからTDLと肩を並べるためには、大阪以外にも複数の拠点が必要だ。新たな拠点を作るには、その原資となる売り上げが必要で、大阪や関西の市場だけでは不十分と言える。そのために、関西以外からの集客の動機づけを狙ったのが、7月にオープンした、映画「ハリー・ポッター」シリーズの世界を再現したアトラクション「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」だった。

「ハリー・ポッター」でUSJのブランドを全国に知らしめるために、テレビCMなどの広告展開やメディアでの露出、ピーアールイベントの実施など、マーケティング活動にはかなりの力を入れた。その結果、3か月のキャンペーンで日本国内におけるUSJの認知率は98%を超え、集客数は実施開始以来、3か月連続で過去最高を更新するとともに、7ヶ月連続で各月の過去最高記録を更新している。また、遠方からの来場者が倍増し、海外からの来場者については、訪日外国人旅行者全体の増加率の約1.5倍の伸びを示している。今年度は全訪日外客の1割程度がUSJに来ている計算だ。

 もちろん、「ハリー・ポッター」を作るためにはそれ相応の予算が必要だったので、2012年にはなけなしの原資をはたいて、ファミリー向けエリアの「ユニバーサル・ワンダーランド」をオープンした。それまでのUSJにとって、家族連れは得意とするターゲットではなかったので、あえて注力することで強みに転換し、V字回復の起爆剤とした。

 ビジネスには、チェスや将棋のように予測と逆算が必要だ。「ユニバーサル・ワンダーランド」の成功こそが、「ハリー・ポッター」での成功につながっている。「ハリー・ポッター」の効果もあって2月20日には、初年度以来初めて、年間入場者数の最高記録を更新する見込みだ。